第5話
「さぁさぁのったのった! いよいよ始まるこの決闘!! 賭けるもバカだが、賭けぬもバカ!! 同じバカなら賭けなきゃ損だよー!」
ギルドの中庭にある訓練場が、騒々しい掛け声で賑わう。
「今回の賭けの対象は、Cランクパーティ『
煽り文句が火を付けたのか、みるみる掛け金が膨らんでいく。
Cランクパーティ『
どうやら相応の実力を備えた冒険者たちらしい。
勝つために嫌われても上等、というシンプルかつ明確なパーティ方針で活動していたため、この村ではかなりの知名度を誇っていた。
派手さはないが、確実に依頼をこなすので、パーティ名の割には嫌われてはいない。
実力的にはBランク相当と言われているが、冒険者の活動自体も堅実なため、実力と昇格のスピードが見合っていないとも言われている。
この村で活動している多くの冒険者が、『
当然、賭け率は突然出てきた女と少年二人の方が高いのは
決闘の宣言が村全体に広まり、場が整うまでにそう長い時間はかからなかった。
「いや、盛り上がってんなぁ」
「……他人事みたいに言ってるけど、貴方が原因なのわかってる? こんな茶番に付き合いたくないのだけど」
エルフの女性はまるで自分は悪くないという言い回しで不服そうだ。
「僕からしたら原因は二人なんだけどね……」
ボルテージが上がる観客を尻目に、関心・呆れ・諦めという三者三様の反応。
島内はさまざまな部族がいるため、行く先々でいわゆるローカルルールというのが存在している。
それはラーデン島内で冒険者や旅人となって生きていく上で避けては通れない。
中にはこのエルフのようにそうした慣習に不満を持つ者もいるが、少数の不満は多数の声の中に埋もれてしまうのが世の常だろう。
『決闘の興業化』。
それはこの村が存在する場所に由来していた。
基本的にこの村は辺境と呼ばれる所にある。
鉱山があるおかげで村には、多くの旅人や商人が訪れるものの、宿場町という性質上、必要以上に長く滞在することはない。
そのため、この村を拠点に活動している冒険者などは退屈との戦いも強いられる。
その退屈が娯楽としての決闘文化を
決闘を断ることももちろんできる。
ただ、その場合この村にいる間は多くの人々に白い目で見られ、その視線に耐えかねてすぐに出ていくことになるだろう。
なぜなら、決闘の宣言がなされた後、ギルドにいる人が以前決闘を受けずに逃げた冒険者のことを、口々に面白おかしく話していたのが聞こえていたから。
(この決闘、受けなきゃ受けないで面倒くさいだろうな)
ガウェインは素直に決闘を受けた方が変なしがらみが残りにくいだろうと考え、ジンとエルフの女性に申し出を受ける提案をしたのだった。
「……こうなったら仕方がないし、お互いの自己紹介をしようか? 僕はガウェイン。精霊使いだよ」
「……私はシーリス。訳あって旅しているハーフエルフよ。貴方、ヒューマンなのに精霊と交信できるのね……」
渋々といった様子のシーリスだったが、ガウェインの意外な技能には驚いた。
一般的に、精霊と交信できるのは、長い時を生き自然と同じような存在になるエルフのような一握りの種族だけだと言われているからだ。
「俺はジン。ガウェインみたいな変わり種じゃないただのヒューマンだ。よろしくな」
「ふーん、ただのヒューマン、ね……」
シーリスはジンの目の色を見た。
「貴方の目……、珍しい色ね。まるで昔話に出てきた人みたい」
「あーまぁ確かにそれは聞いたことがあるな。だけど関係ないぜ? 俺の生まれは東の寒村だ。……仮にあったとしてももう確かめようがないしな」
「もう?」
「あぁ。十年以上前に
「……そう」
ラーデン島の東といえば竜人族が治める地域だ。
彼の地には
シーリスは記憶を辿り、十年前に当時の竜人王がクーデターに呑まれたことを思い出した。
そして、
先代王にはシーリス自身も一度会ったことがあるが、懐が深い人物だったように思う。
領民を思う王から選民思想の王へ。
その
「……ごめんなさい、無神経なことを聞いたわ」
「別にいいさ。しかし、さすがエルフだな。よく知ってる」
「何よそれ? 嫌味?」
「まさか! あの国の異常性をわかってくれて安心したくらいだよ」
正しい価値観の持ち主でよかった、と。
「--さて、そこまでにしよう。思ったより相性が良さそうだ」
ガウェインはパンと手を叩いた。
「おいガウェイン! なんか含みがある言い方するな!?」
「なんのことかな?」
「はぁ……。意外に子どもっぽい所があるのね」
シーリスはため息をつく。
「はいはい、それじゃ、そろそろ始めてもいいか? 俺は寝たいんだ。ちゃちゃっと終わらせてくれ」
目の下のクマが濃い、無精髭を生やした壮年の男が決闘をする六人の間に立った。
「あー、それとあまりに酷い展開になりそうなら止めに入るからな。じゃっ……始め!」
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