【KAC20245・第5回お題・はなさないで】新選組であること……藤堂平助の独白

凛花

【KAC20245・第5回お題 はなさないで】新選組であること……藤堂平助の独白

― その人は言った。


志だけは決して手放さないでいるのだよ、と……


― その人は教えてくれた。


志は何より尊いのだ、と……


死ぬことは恥ではない、志を自ら捨てることこそが恥なのだと……




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



益荒男ますらおの 七世をかけて 誓ひてし ことばたがはじ 大君のため……

なるほど……とてもいい歌ができたね、藤堂君 」


「……ありがとうございます 」


自作の歌を褒められた藤堂平助は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべたが、

すぐに表情かおをひきしめ頭を軽く下げた。


歌を褒めてくれたのは、平助がまだ新選組でないだったころの剣術の師であり


そして今は……


平助の上司に当たる新選組幹部の参謀、伊東甲子太郎。


近頃の平助は隊務がある時以外はこうして伊東の部屋で勉強をしたり、仕事を手伝っている。


北辰一刀流の道場主だった伊東


同門……その絆はやはり強い


剣術の道場はただ剣術を習うだけではない


黒船来航以来、夜が騒然とし

まさに動乱の時を迎えつつあるこの国で若者たちは、

熱く、激しく、青く……時勢を論じた。


平助が席を置いた北辰一刀流は江戸の三大流派で、水戸学などの学問に精通してる者が弁をふるう。

自然、若者たちは勤王の志に感化されていった。


もちろん平助も勤王の志を胸に抱いた


都におわす帝は尊いのだ……


それでもまだ純粋であった平助は勤王と言う志は幕府を通じて行われるべきだと信じていた。


だから幕府のために働くのだ

帝のために攘夷を約束した幕府の存在を脅かす者たちから守らねばならない


京にのぼってからもずっとそう信じていた、信じようとした


だから命じられるままに人を斬りつづけた



それが……


いつから?


慕っていた同門の先輩、山南さんの死をきっかけに

それまで自分が信じていたものや、人、価値観のすべてを見失った


すべて……俺が信じてやってきたことは、すべて何だったというのだ



今まで俺は何をしてきた?


これから何をするべきなのか?


……わからない


突然暗闇に放り込まれたような世界で



唯一、見つけた光



差し伸べられた手



『 一緒に探そう、きみの志の成せる世界を…… 』



暗闇の中で、伊東先生は俺の光になった……



志を……


伊東先生というみちしるべを……






楽しかった日々も


笑いあった友でさえ


何もかも失ってもかまわない



先生の手を


暗闇の中でも


俺は……きっと、歩いて行ける



新選組であり続けることができる

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