本編11
常に強気で気丈なシロテ。
そんなボス猫が、ほんの一瞬、何かを躊躇する様子を見せた。
その微妙な反応を、つくしは見逃さなかった。
「なぁ、どうした? シロテ、お前、何かに気が付いたんだろ? 悪いことでも、1人で抱えるのはよくないよ。仲間なんだから隠し事は無し、そうだろ?」
観念したのか、シロテはふうとため息をついた。
「もし本当に、店主があんなたくさん血の出る怪我をしていたとしたら、さ……。あの足跡の側に、血痕があるんじゃないかと思ってね……。できれば、見つからないでほしいけれど……」
猫たちは足跡の周辺に血の痕跡がないか嗅ぎ取ってみた。
すると、シロテの予想したとおり、足跡の横に転々と血痕が続いていた。
つまり、あのマンホールにこびりついていた生爪は――。
店主のものである可能性が、極めて濃厚だった。
店主を慕っているシロテは、堪えきれずにパニックに陥った。
「あああ~! やっぱり怪我をしていたんじゃないか! どうしよう! どうしよう!」
取り乱し、子猫のようにミャウミャウと鳴き声を上げたシロテ。
落ち着かせようと、つくしが側に寄って行って身体をスリスリした。
「おいお前、大丈夫か? ビックリしたとは思うが、このくらいの傷では缶切りは死なない。心配するなよ。ぜったい大丈夫だって!」
しっぽとグレイも、シロテを慰めるように毛づくろいをしてやった。
仲間がなだめた甲斐あって、シロテはすぐに落ち着きを取り戻した。
「アタシとしたことが、面目ない。取り乱してすまないね。でも、これではっきりした。あの大ネズミを追いかけて、店主はこんな場所までやって来たはずさ」
その言葉に聡明な博士猫、グレイも頷いた。
「シロテの言うとおりだと思うわ。……でも、こんな場所に、人間がネズミを追ってくるなんて変ね。きっと何か理由があるに違いないわ。進みましょう。そうすれば、答えが分かるはず」
気移りしがちなしっぽも、真剣な顔をしている。
一刻も早く、あのしょうがない迷子の人間を、助けてやらなければ。
店主の痕跡を追いかける猫たち。
まっすぐ通路を進んで行くと、細い排水溝の隙間などからネズミの声が聞こえてきた。
この下水道には、無数のネズミが潜んでいるようだ。
猫の姿に恐れをなしたのか、奴らがこちらに向かってくる気配はない。
下水の悪臭の漂う地下通路。
鼻が曲がりそうだ。
進むにつれて明かりはどんどん少なくなり、足元も真っ暗になっていく。
夜目が利く猫でも、ヒゲを駆使してやっとのことで周囲の様子が確認できる暗さである。
やがて、分岐点のY路地に突き当たった。
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