シロテ達は、ネズミの匂いを辿ることにした。


 その先に店主が居るかは不明だが。


 店長が何の理由もなく、不気味なネズミを追って行ったことが気がかりだった。


 猫以外の動物に興味のない彼が、仕事や猫たちを放ってネズミの後を追いかけるとは考えがたい。


 幸いなとこに、乾いたアスファルトには、ドブ臭い足跡が点々と染み付いていた。


 グレイの猫並み外れた鋭敏な嗅覚のおかげで、その痕跡を追うのは簡単だった。


 ネズミの足取りは明るい表通りを避け、人気がない路地を縫うように進んでいく。


 追えば追うほど、町中からどんどん遠ざかっていく。


 一行は暗く寂しい町はずれへと向かって行った。


 やがて大きな公園にたどり着いた。


 かなりの距離を移動したような気がするが、人間の足ならそこまでの遠出ではないだろう。


 ネズミの匂いは正面から公園に入り、うっそうと茂る木立に囲まれた遊歩道を進んで行った。


 空は真っ暗だが、適度にライトアップされた園内は猫にとって問題なく探索ができるくらい明るかった。


 人気のない夜の公園はちょっと怖い場所かもしれないが、一行は特に気にせずズンズン進んで行った。


 ところが。


 グレイが突然、困惑した様子で足を止めた。


「あらまぁ! ネズミの臭いが、この辺で途切れてるわ。これしゃぁ、どっちに行ったのか分からない。どうしよう……」


 グルグルとその場を回るグレイ。


 しっぽは新しい場所に興味津々と言った顔で、周囲を見回している。


 シロテは仲間にすかさず指示を出した。


「とりあえず、手分けして周囲を確認するよ。変わった物を見つけたら報告すること。いいね」


 4匹は、思い思いに気になる場所を調べ始めた。


 周囲をうろうろしていたところ、シロテとつくしがほぼ同時にある物を発見する。


「あれ? おーい、シロテ。マンホールの蓋が開いてるよ」


「おやまぁ。あっちには帽子が転がっているねぇ。店主の被っていたものと、よく似てないかい?」


 シロテは真剣な表情で、見つけたものをジッと観察している。


 彼女の言う通り、開いたマンホールの近くの芝生に店主が長年愛用しているものと全く同じデザインの帽子が転がっていた。


「あのヘンテコなツバ! 店主の帽子だよ! 間違いない!」


 つくしは慌ててシロテの元へと駆け寄った。


 匂いを嗅いで店主のものか確かめようとする。


 その様子を見たグレイとしっぽも、興味を引かれていっしょにやって来た。


 嗅覚に自信のあるグレイがくんくんと匂いを嗅いでいると。


「うわーい! 帽子だぁ!」と叫んだしっぽが、勢いよく帽子の中に飛び込んだ。


「おいおい。しっぽ、これは遊びじゃないんだぞ」


 つくしが呆れた顔でたしなめるが、しっぽはキャッキャとはしゃいでいる。


「めっちゃくらーい。あと、すっごい安心する匂いがする。これ、店主さんだね」


 グレイも同意した。


「店主の帽子で間違いないと思う。問題は『何でこれがこんな場所にあるか』だよね?」


 仲間がはしゃぐ様子を見守っていたシロテは、ふと顔を上げた。


 マンホールの蓋あたりから、微かな血の匂いが漂っているような気がした彼女は、不吉な予感に顔をしかめた。

 

 腰を低く落とし、ゆっくりと警戒しながらマンホールに向かって歩いて行く。


「ん? どうした、姐さん」


「しっ、静かにおし! 血の臭いがするのに気が付いてないのかい?」


「血!? だったら1人で行くなよ。危ないだろ」


 ボソボソと小声で会話する二匹の声は帽子の中で遊んでいるしっぽの耳には届かなかった。


 しかし、グレイの耳にはバッチリ聞こえていた。


「待って。危険かもしれないから、私も一緒に見に行くよ」

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