「お姉さん、めっちゃ可愛いっスね」


「名前は? しっぽ? しっぽチャンは、どこが縄張りなの?」


「俺たちケンカが超つよくてさぁ、この辺では一目置かれてるんだぜ」


「何か困ったことがあったら、俺らに任せて!」


 色めきだった雄猫たちは、思い思いにしっぽの気を引こうとした。


 さりげなく毛づくろいをして身だしなみを整えたり、自慢の髭をピンとさせて凛々しい顔を作ったり。


 すっかり骨抜きと言った感じで、可愛いしっぽのお願いなら喜んで聞いてくれそうな気配がした。


 シロテはしっぽに聞き込みをするよう目配せしたが、無邪気な彼女の説明は要領を得ず、話がちっとも伝わらなかった。


 見かねたグレイが横から口を出す。


「ええと、つまり、いつも私たちに食べ物を持ってきてくれる人間が行方不明になっていて、そのせいで今、彼女はとてもお腹がすいているのよね。で、その人間は昼頃この店に来たみたいだから、誰かこの辺で見かけてないかな、と」


 店主の風貌と服装を説明すると、ニャンキーが口々に言った。


「ああ、ヘンテコな帽子をかぶった、あの親切な缶切りだろ?」


「いつも陰鬱な顔をしてるのに、猫を見たとたんにめっちゃいい笑顔になる男」


「何度か食べ物を貰ったことがあるから、オレ、そいつ知ってるよ」


「え? あいつを探しているのか? 空がまだ明るい時間帯に、この店の前で見かけたぞ」


 なんと、ニャンキーのうち一匹が、店主をコンビニの前で見かけたという。


 太陽が真上にある頃だというので、真昼、つまり時間帯的に考えて、それが店主であることはまず間違いなかった。


「お前達が探してる人間を見かけた、ちょうどその時だよ。その人間の前に立ちはだかるように、丸々と太った大きなネズミが現れたんだ」


 彼は食べごたえのある獲物に舌なめずりし、さっそく昼食にしようと思ったらしいのだが……。


「せっかくのエモノを取り逃がしたんだ! あー、クソ! めっちゃ悔しいぜ!」


 彼の話によると、大ネズミが棒きれのような物をこちらに向かって振り下ろした瞬間、突如として激しいめまいに襲われたという。


 ニャンキーは立っていることもできず、ただ地面に倒れたまま、ぼんやりと目前の光景を眺めるしかなかった。


 そして、そのネズミは倒れる猫を放置したまま、しばらくしてその場から立ち去った。


「あの人間、もうこの辺りにいないかもしれねぇぜ。フラフラとした危なっかしい足取りで、大ネズミの後を追って行ってたし」


 つくしは尋ねた。


「それで、うちの店主とそのデカネズミは、どっちに向かって行ったんだ?」


 ニャンキーは気まずそうな顔で、首を振った。


 わりと長い間、倒れたまま身動きができなかったらしく、詳しい行先までは分からないと言う。


 大ネズミを追いかける店主が、コンビニの駐車場を斜めに横断し、植え込みを無理やりまたいで超えて行った所までは目撃していた。


 シロテはフム、と考え込むような顔をした。


「大きなネズミ、ねぇ。そういえば、そういう噂を聞いたっけ。何でも、大人の猫より大きいネズミが出る、とか。そいつを捕まえようとすると、突然めだまがグルグル回って倒れてしまうと聞いたね。……そうだ。靴を履いた缶切りの匂いは分からなくても、ネズミなら何とかなるかもしれないね。グレイ、あんた、こういうの得意だろ?」


 グレイは鼠が立っていたと思しき場所を、クンクンと嗅ぎ回った。


「あ! ドブネズミの臭いがプンプンするよ! 今日は雨も降ってないし、これなら何とか追跡できそうかも」

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