先ほどの野良猫の話をまとめると。


 店主は昼休憩で店を出て、店が面する通りを左へまっすぐ歩いて行ったようだ。


 それ以外の手がかりは特になかった。


 協議した結果、シロテの一声でとりあえず、そちらへ向かって歩いていくことにした。


 4匹が、周囲の匂いを嗅いだり、何か見つからないかとキョロキョロしながら歩いていると。


 何だか見覚えのあるマークの看板が見えてきた。


 グレイは鳴き声をあげて、仲間の注意を引いた。


「見て! あのマーク、見覚えがあるわ!」


 そう。それは、保護猫カフェの中で見つけた、レシートに印刷されていたのと同じロゴマークだった。


 この店は、保護猫カフェの目と鼻の先にある。


 ファミリーキャット、大手のコンビニチェーンの店舗だ。


「絶対ここだわ。店主さん、昼食を買いに行くとき、いつもこのコンビニを利用しているのね」


「なんでそう思うの?」


 つくしは首をかしげた。


 グレイは胸を張って答えた。


「だって、店主さん、車が欲しいけどお金がなくて買えないって嘆いてたじゃない。人間が徒歩移動で10分ちょっとで戻ってこれる店っていったら、絶対ここでしょ」


 しっぽは目をキラキラさせて、看板を見上げた。


「このマーク、楽しいから大~好き♡ 店主さんが持ってくる白い袋で遊ぶの、とっても楽しいよ♪」


 しっぽの言葉に、記憶力のいいグレイが反応した。


「確かに、しっぽの言うとおりだわ! 店主さんが昼食をぶら下げてるビニール袋にも、この看板と同じマークがついてたはず!」


 つまり、店主は昼休憩で外に出かける時、いつもこのコンビニで昼食を買い、短時間で帰って来ていたのだ。


 この店が、店主の向かった先である可能性が高い。


 調査のために、近づこうとした4匹だったが。


 全員がピタリと足を止めた。


 店先に、先客の姿があったからだ。


 眼光がやけに鋭い、若い青年の野良猫の集団だ。


 物珍しそうに彼らの姿を見回したつくしは、特に臆することなく彼らに話しかけようとした。


「ちょっと聞きたいことが……」


 近寄ろうとすると、すぐさまメンチを切られてシャーと牙をむき出し威嚇された。


「なんだお前! ちょっと強そうだからって、調子に乗るなよ!」


 つくしは内心で深々とため息をついた。


 相手は見るからにオラオラ系と言った感じで、ガラが悪く喧嘩っ早そうな集団だ。


 大人の社会に歯向かいたい年頃なのだろう。


 彼らは目上の猫に対して強い反抗心を持つニャンキーに違いない。


 猫社会で地位の高いシロテや、自分より年上で強そうなつくしのことをあまり良く思ってないようだ。


 こちらは敵意を持っていないが、向こうは「アァン? やんのかコラ!」と言った感じでこちらを睨み付けている。


 その時だ。


 つくしに耳打ちをされたしっぽがトコトコと前に進み出た。


 そして、ニャンキー達に声をかけたのだった。


「こんばんは、カッコいいお兄さんたち。わたしとお友達にならない?」


 そう言ってウインクされた瞬間、ニャンキー達はデレデレし始めた。


 むさ苦しい男の園に、可愛らしく魅力的な雌猫が現れたのだ。


 これはもう、ナンパするっきゃない!

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