店の外へ出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。


 しかし、この店は繁華街のど真ん中の商業エリアに位置するため、周囲は煌びやかなネオンや街灯などでキラキラと輝いている。


 車や通行人もそれなりにいて、夜にしては賑やかだ。


 シロテ、つくし、グレイ、しっぽ。


 周囲を見渡す、4匹の猫。


 2階の保護猫カフェへと続く階段の入口に、ボードのようなものが立てかけてある。


 何やら文字らしきものが並んでいるようだ。


 これはおそらく、自分たちの店の看板だろう。


 そう思ったグレイは、そこに記載された文字を読み取ることを試みた。


「これは人間の言葉で、外国の言葉だったはず。O、P、E、N。ええと、おぉぷんって発音する単語だったはず。確か、開いているとか、開店中って意味だったと思うわ」


 シロテは目を丸くした。


「あなた、外国の人間語まで話せるの? 勉強熱心で偉いねぇ」


 グレイは照れた様子で、毛繕いをするふりをした。


「実は最近、Nなんとかってテレビ番組の初級英会話って番組にはまってるの。薄めの茶トラみたいな毛色をした人間が出て来て、英語を教えてくれるやつ。この単語は昨日の放送で見たから、間違いないと思うわ」


 看板の裏を覗き込んだしっぽが、声を上げた。


「ねぇねぇ、こっちにも何か書いてあるよ」


「あ、ほんとだ。C、L、O、S、E、Dですって。これはくろー……ええと、読み方なんだっけ? 確か、この単語の意味はおぉぷんの反対だったはず」


 珍しく考え込んでいたつくしは、不思議そうな顔で言った。


「つまり、これって開店中ってことだよな? だったらおかしくないか? 午後は閉店する予定だったら、これを裏返してないと客が間違えて入ってきてしまうだろ? ほら、何度か常連の人間がドアの前をウロウロしてたし。もしかいて、あいつ、出かける時、まだ店を閉めるつもりがなかったんじゃないの?」


 指摘され、猫たちは顔を見合わせた。


 確かにそうだ。


 だとすると、やはり店主はいつも通り昼食を買いに出かけた後、何か予想外の出来事に見舞われたのではないだろうか。


 そう思っても、ここからの店主の足取りについては4匹に知るすべはない。


 保護猫カフェから脱走したのはこれが初だったので、店の周りの地理には詳しくなかった。


 悩んでいると、そこに一匹の雄の野良猫が通りかかった。


 歴戦のつわものなのか、身体のいたるところに傷がある。体格もがっちりしていて、かなりデカい。


 歩道のど真ん中を胸を張ってノシノシと歩いている。どうやら、つくし達4匹が自分より弱い相手とナメてかかっているようだ。


 話しかけようとすると、こちらを見下ろしフスンと鼻で笑われた。


 さすがにカチンと来たつくしは、全身の毛を逆立てて野良猫を威嚇する。


 と、大柄なつくしを押しのけたシロテが、ズイと前に歩み出た。


「お、おう。なんだ姉ちゃん。そんなところに突っ立ってたら、通行の邪魔だぜ」


「おだまり!」


 貫禄のある声に、雄猫はその場に凍り付いた。


 特段大柄という訳でもないが、歴戦の野良猫が気圧されるだけの迫力はあった。


「アタシには姉ちゃんじゃなくて、シロテって立派な名前があるんだ。隣町からやってきたシロテだよ。聞いたことがあるんじゃないかい?」


 野良猫はハッとした顔で、シロテの姿をまじまじと見た。

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