つくしの話に食いついてきたのは、しっぽだった 


「え! お出かけ? お出かけ? 私も行きたい」


 つくしは困り顔でニャオと鳴いた。


 しっぽは明るい良い子だが、好奇心旺盛で興味の対象がコロコロ変わる。


 正直に言って、探索向きではないと思う。


 店主を探して食事にありつくという目的から脱線せず、探索をするのは難しそうだ。


 そのため、彼女には留守番しておくよう説得しようと思ったつくしだったが。


 ふと良い考えが浮かんだ。


 ――しっぼといっしょにいれば、雄猫と喧嘩をせずにすむんじゃないか?


 つくしは大きな体格が目立つせいか、行く先々でボス猫クラスの強い奴に絡まれる。


 戦闘は得意ではあるが好きではないし、早く店主を探したいのに端から喧嘩を吹っ掛けられていては埒が明かない。


 しっぽは非常に愛くるしい猫であり、キャットフードのパッケージのモデル猫になったことすらある。


 それに、コミュ力がかなり高い。


 かわいらしさと友達の多さで、彼女の右に出る猫はそうそういまい。


「よし、じゃあ、しっぽも来い。……で、先生。どうやったら外に出られるんだ?」


 話を振られたグレイは、断りきれないと察してため息をついた。


「……まったく、仕方ないわね。入り口の自動ドアは、私たちの力じゃ開けられない。そこの窓の鍵を開けたらどうかしら?」


 グレイがしっぽの先で示したのは、窓のクレセント鍵だった。


「ほら、よく見て。銀色のレバーみたいなのが付いてるでしょ。それを下に動かすの。そうしたら、窓ガラスを横に動かせるようになる。……いや、右側の窓を動かすなら、右じゃなくて左へ動かさなきゃダメでしょ」


 言われたとおりにすると、ガラリと音を立てて窓が開いた。


 喜んで外に出ようとするつくし。


 そんな先輩猫と先陣を争うように、窓から勢いよく首を出した子猫のチビ。


 彼は地面までの距離を見て耳を寝かせ、ブルブル震えた。膨らんだ尻尾は、股の間に挟まっている。


 ここは2階だ。


 大人の猫なら、足場を利用して余裕で着地できる高さだが、子猫にとっては難しいだろう。


 チビはその場で固まって動こうとしない。


 恐怖と一人前と認められたい意地の板挟みになっているようだ。


 つくしは子猫の背中をトンとつつく。


「後輩。留守番は任せたぞ。この店で俺の次に強いお前なら、皆のことを守れるよな?」


 尊敬している先輩に、留守中の守りを任された。


 チビはキリッと誇らしそうな顔で答えた。


「もちろんです! 任せてください!」

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