この手をはなさないで

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「この手をはなさないで」


 隣を歩く彼女が僕の左手を握る。

 そして、そのまま自分の胸元へ引き寄せた。


「私たちの気持ちは、いつだって一つだよ。ずっと手をはなさないでいてね」


 彼女はそう言って嬉しそうに微笑む。

 その微笑みに思わずドキッとした。


「ああ、勿論さ。約束するよ」


 そんな彼女に見惚れながら僕はそう返事をし、彼女の手を強く握り返す。


「君から伝わる思いが、僕を強くする」


「私も同じ気持ち。私たちの願いのために、頑張らないとね」


 そう言って、彼女は僕の手を更に強く握り締める。

 それと同時に自分の胸が熱くなるのを感じる。

 僕は魔王城に辿り着くまでの間、彼女と手を繋いだまま歩き続けた。


「……着いたぞ」


 やがて僕たちは魔王城の目の前へと辿り着く。


「いよいよだね……」


 彼女はそう言って僕の手を更に強く握る。

 僕も彼女の手を握り締め、頷く。

 そして、僕たちは魔王城の中へと入っていった。



 魔王城の中は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。

 しかし、それでも僕たちは足を止めずに進んでいく。

 そしてついに最深部へと辿り着いた。


「よくここまで来たな、勇者よ」


 玉座に座る魔王が僕たちを見据えながらそう言う。

 その威圧感に思わず怯みそうになるが、僕は勇気を振り絞って口を開いた。


「……お前が魔王か」


「いかにも。私がこの城の城主にして、この世界を支配する者だ」


 魔王はそう答えると不敵に笑う。

 その強い視線から感じられる威圧感は凄まじいもので、背筋が凍るような感覚がした。

 だが、ここで負けるわけにはいかない。

 僕は腰に差していた聖剣を抜き放ち、構える。

 それと同時に隣にいた彼女も杖を構えた。


 そんな僕たちの様子を見た魔王は立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 そして目の前まで来たところで立ち止まり、再び口を開いた。


「迷いはないようだな。ならば、私も本気で相手をしよう」


 魔王はそう言って右腕を上げると、指先から黒い靄のようなものを放出した。

 その靄は次第に大きく広がっていき、やがて魔王の体全体を包み込む。

 そして、その中から現れた魔王の姿は先ほどまでとは大きく変わっていた。


 その姿はまるで悪魔のようだった。

 頭には角が生えており、背中からは漆黒の翼が生えている。

 手足には鋭い爪が生えており、口元からは牙のようなものが覗いていた。


 冒険を始めた頃の僕なら、この姿を見ただけで逃げ出していたかもしれない。

 しかし、今の僕は違う。

 魔王がどんな姿に変わろうとも、絶対に負けるわけにはいかないんだ。


「魔族の時代を終わらせ、次の時代に進む! 行くぞっ、エマ!!」


「うんっ!!」


 僕たちは同時に地面を蹴り、魔王へと突撃する。

 こうして、僕たちの最終決戦が始まったのだった。

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この手をはなさないで 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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