第3話光速

「ふう。何とか間に合ったみたいかな?」


オーガの攻撃を受け止めながら、ぼろぼろの女の子を観察する。身体能力や魔力の量、質ともに下層で通用するレベルとは到底思えない。馬鹿なことをしやがってと思うが文句を言うのは後にして今はオーガが先かと意識を切り替える。自らの攻撃を受け止めて見せた男に警戒したのか距離をとっている。


こちらとしても先ほど無理な形で攻撃を受け止めたため、腕が少し痺れていたのでありがたい。アイツならオーガ如きの攻撃なんて簡単に止めるのになあと脳裏に幼馴染の顔が浮かぶ。そんなことを考えていると再びオーガが叫びながら走り寄ってきてこん棒を振り下ろす。それを半身になって躱しながら剣で切りつける。


(下層のくせにオーガは硬いなあ。そのぶん攻撃手段は少ないから倒すのは簡単だからいいか)


オーガの攻撃手段はこん棒で殴るか石を拾ってなげるぐらいのものである。魔法も使わないしフィジカルだけの脳筋だから攻撃をかわすことさえできたら後は地道に削っていくだけだ。その後も攻撃を躱しながら地道にダメージを与えて数分、ついにオーガに限界が訪れドロップを残して消えるのだった。


side雪



「あの人凄い...」


痛みを忘れるほどに目の前で行われる男とオーガの戦いに目を奪われる。一言で表すならばそこには‘‘美‘‘があった。オーガの攻撃を紙一重でかわし続け確実にオーガに攻撃を与える男。何時間かけてもオーガの攻撃は一回も当たらないであろうと見ている側にも分かるほどの回避。未来が見えているのかの錯覚するほどに無駄のない動き。


(ネクサスのメンバーの下層を無双する配信は私も見たことがあるし、凄く興奮した。でもあれはどこか映画やアニメを見ているような現実感のない映像だった。でもこの人は違う)


ネクサスの人たちのは何をやっているのか分からない、説明できないけど、ただただ圧倒的に強い。それに比べこの人のやっていることは言ってしまえば敵の攻撃を躱して自分の攻撃を確実に当てているだけだ。ただその練度が高すぎる。


(一体どれだけの努力を重ねたらこの領域にたどり着くの...)


そんなことを考えている間も戦闘は進みいつの間にかオーガが倒れていた。すると戦闘を終えた男がこちらに近づいてくる。


side主人公レイ



戦闘を終え何処か放心しているようにみえる女の子のもとに行く。


「言いたいことは沢山あるけど、とりあえず回復させるよ」


傷だらけの女の子に念のためどんなダンジョンに潜るときにも常備しているポーションをアイテム袋から取り出し振りかける。するとみるみるうちに傷がふさがっていった。


「あっ、ありがとうございます。えっ! 嘘、この回復力もしかして上級ポーション!?」


「で、なんで君のレベルで下層に来てんの? どう考えても実力不足でしょ。しかもソロだし」


「そ、それは...返す言葉もございません。完全に慢心してました」


何一つ言い訳せずに落ち込む女の子の姿に毒気を抜かれ、文句を言うのはやめにする。


「はあ、とりあえずもういいや。今回は運が良かったからいいけど、次からはもっと実力をつけてから来るようにしなよ。後ソロでは来ないこと!」


ソロとパーティーでは生存率が段違いだ。人間関係などの悩みが増えるという可能性もあるが命には代えられない。


「は、はい。そうします」


「とりあえず中層までは送るから。そっからは一人で大丈夫でしょ?」


「はい、すみません。ありがとうございます」


回復して歩けるようになった女の子を連れて中層の方へ行く。道中、女の子が話しかけたそうにしているのが分かったがこちらはさして興味がないので気づかないふりをする。


しばらくして中層につき女の子に別れを告げる。


「じゃ、中層ついたから俺はこれで」


「あ、あの待ってください!」


踵を返す俺に待ったをかける女の子。溜息をつきながら振り返る。


「はあ、これ以上何か?」


「あ、あの私はCランク探索者の雪です! 今日は助けてくれてありがとうございました! あの、お兄さんの名前を教えてくれませんか?」


どうせネクサスが6人パーティーであることを知っている人なんて今どきほとんどいないし、名前ぐらいならいいかと思って答えることにする。


「Aランク探索者レイ。それじゃまた機会があれば。ッ!?」


名前を告げて今度こそ別れを告げて去ろうとしたその瞬間俺の感知範囲に中層をあり得ないスピードで爆走する存在が現れる。これはアイツだな。雪という女はまだ感知できてないのか身構えた俺を不思議そうにみる。


「あの、レイさん? どうかしたんですkッ!?」


その瞬間雪にも感知できたのか警戒態勢をとる。


(腐ってもCランクはあるみたいだな。予想より警戒態勢になるのが早い。まあ、この反応はアイツだから警戒する必要ないし、仮にアイツが敵対したのであればいくら警戒したところで無駄だろうが)


雪が警戒態勢をとってからわずか数秒後、場に赤い髪の勝気そうな女が現れる。その女は雪に目もくれずレイに向かって話しかけた。


「やっぱり! レイじゃん。結構久しぶりじゃない?」


フランクに語り掛ける女。


「久しぶり、ヒカリ。そうだね、この前みんなで飲み会したとき以来だから半月ぶりくらいかな? 元気?」


雪と話していた時とは考えられないほど柔らかい口調と表情で対応するレイ。


「元気元気! アタシが元気じゃないときなんてないよ! ってあれ? この女の子誰? レイの友達?」


レイしか眼中になかったのかようやく雪の存在に気づくヒカリ。


「や、ただ下層で死にそうになってたから助けてあげただけ」


「ふーん。なんだレイの知り合いじゃないのか」


すぐに雪への興味を失うヒカリ。しかしヒカリの顔を正面からまじまじと見た雪が何かに気づき震えた声でヒカリに話しかける。


「あ、あの。もしかしてですけどネクサスのヒカリさんですか!? あのSランク探索者で光速の二つ名を持つ!?」


「その二つ名あんま好きじゃないんだよね。光速のヒカリってなんか頭痛が痛いみたいじゃん?」


ほぼ肯定の返事をするヒカリ。二つ名については不服のようだ。


「まあ、ヒカリ。二つ名があるのは強者の証でもあるんだからあるだけいいじゃん」


「でもレイ、ネクサスは全員持ってるしアイツなんて剣鬼だよ? そんな柄でもないくせにさあ。ずるくない?」


「でも、撲殺天使よりはマシじゃない?」


ネクサスのヒーラー役の子につけられたひどすぎる二つ名を引き合いに出してヒカリを宥める。


「あー、確かにそうだわ。うん、これ以上文句言うのはやめとくわ」


貴方は全然いい方じゃないですか。と憤怒の表情を浮かべて言いそうななあの子を思い浮かべ微妙な表情をするヒカリ。


「そうした方が賢明だね」


雪のことを無視して話を続ける二人に再び雪が口を挟む。


「あ、あのお会いできて光栄です。私Cランクの雪っていいます。あの、ところで御二人はどのようなご関係で?」


ネクサスのメンバーであり日本に3人しかいないSランク探索者でもあるヒカリとあまりにもフランクに喋るレイに違和感を覚えそう尋ねる雪。


しかしその瞬間信じられないほどの圧をヒカリが振りまく。そして先ほどまで一切雪の方を見ずに興味なさそうにしていたヒカリが急に雪の方を向いて近づいてくる。オーガの咆哮と比べものにならないほどの圧を食らい数秒どころかゆっくり近づいて来ているのにもかかわらず身動き一つできずに固まる雪。


「嘘!? 日本で探索者として活動しているにもかかわらず私たちのこと知らないの? モグリでもありえないよ」


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