第4話放送事故

「嘘!? 日本で探索者として活動しているにもかかわらず私たちのこと知らないの? モグリでもありえないよ」


「う、あ...」


Sランク探索者による大きすぎる圧によって身動き一つできなくなる雪。オーガに殺されそうになった時よりも大きな恐怖を感じる。


「ヒカリ、その辺にしとけ。Cランクにその圧は重過ぎる」


見かねてヒカリに圧をかけるのをやめるように言う。


「はいはい、レイがそういうならやめるよ。で、ほんとにわたしたちのこと知らないの?」


不満げに圧を解き、再び雪にそう尋ねる。圧から解放され大きく深呼吸をして返事をする雪。


「えっと、ヒカリさんのことは知っています。ネクサスの方ですよね? ですがレイさんについては......何か気に障られたのならすみません」


何も知らないと申し訳なさそうに謝る雪。


「うわー、ほんとに知らないんだ。確かに最近目立つことしてないけどさあ」


「この子だけじゃなくて、今俺のことを知っているのは昔からの探索者ぐらいでごく一部だよ」


ヒカリはSNSとか興味ないから知らなかっただろうけどと告げる。


「そっかあ。もうそんなことになっちゃってるんだ。あ、でレイのことだよね。レイはねえ私たちネクサスのリーダーでついでにクラン、ネクサスリンクのクランマスターだよ」


そう雪が告げた瞬間場は数舜の間沈黙に包まれる。


「え、えーーーー!!? レイさんがネクサスのリーダー!? そもそもネクサスって5人パーティーじゃなかったんですか?」


あまりの衝撃に雪が叫び声をあげる。


「いや、私たちは最初から6人パーティーだよ? どこからそんな話が広がったの?」


「いや、でもネットや雑誌でもみんなそんな風に......」


雪が口ごもるので助け舟を出す。


「それはほら、俺たちネクサスって取材とか一切応じないじゃん? で、唯一露出したのが俺以外の5人の下層攻略配信だったからそれで勝手にみんなが勘違いしたんじゃないかなあ」


みんな取材とか嫌いだからなあ。あの配信もただ無言でモンスターを蹂躙するだけのものだったから俺以外の有名な5人ですら姿を知っているだけで声を聴いたことがあるという人はほとんどいないんじゃないかな。ネットでみる情報も俺が入っていないこと以外も間違っているところが多々あるし。


「そっかあ、アレのせいかあ。じゃあレイも下層配信したら?」


「いやあ、俺はいいよ。別に世間でネクサスが5人パーティーと認識されていても実害ないし」


「えー、私たちのリーダーがいない扱いされてるの納得いかないよー」


ぶーぶーと文句を垂れるヒカリ。


「まあ、気が向いたらね」


それを軽くかわし、雪の方を向く。


「そういうことだから君もあんまり広めないでね」


別に言ったから何かするということはないけどね、と軽く雪に忠告する。


「は、はい。分かりまsって、あーーー!!」


レイのお願いを了承しようとして何かを思い出したかのように大きな声を上げる。


「ん、どうかした?」


何があったのか雪に尋ねるとものすごく申し訳なさそうにおずおずと話し始める。


「あ、あのすみません。今の話配信に乗っちゃってました......」


「は? どういうこと?」


「あ、あの私ダンジョン配信者というものをやっておりまして、今日も配信をしていたのですが......その下層で死にかけたりいろいろあったせいで配信切るの忘れちゃってて.......」


本当にすみませんと大きく頭を下げて謝る雪。

配信に乗ってしまっているという予想外すぎる状況にしばし頭を働かせるレイに対してヒカリは嬉しそうである。


「レイ、良かったじゃん。わざわざ配信する必要なくなって」


「簡単に言うなよヒカリ。あー、とりあえず配信に乗ってたことは分かった。別に怒んないからそこはいいんだけど。それで今何人ぐらいの人がその配信見てるの?」


どれほどの人数がこのことを知ってしまったのか確認をとる。雪は配信画面を開いて同接人数を確認し、驚きの声を上げる。


「え、嘘!? 同接10万人!? こんなの初めて......」


【知らん男が雪ちゃんを助けてくれたと思ったら、急にネクサスのヒカリが現れて男と話し始め、今度はその男がネクサスのリーダーという驚愕の事実が判明したんだがこれ今どういう状況?】


【誰も追いつけていないんだよなあ...】


【これがたった30分の間に起きたことだからなあ】


【さっきまで雪ちゃんに対するレイさんの対応にキレてた厄介ファンがネクサスのリーダーであることが判明した瞬間だんまりなの笑える】


【そもそも、命助けてもらってるんだから文句言うのは違うんだよなあ】


【SNSのトレンドもネクサスのリーダーとか6人目とかで埋め尽くされてるw】


10万人、か。予想より何倍も多かった。これは無かったことにするのは不可能か。どのように決着をつけるか考えを整理している間もヒカリはのんきに雪に話しかけている。


「10万人って結構すごいんじゃない? 人気者なんだねえ」


「いや、私もこんな人数初めてです。今日は初めて下層に挑戦する日だったので普段よりも多いは多かったんですけど......」


考えがまとまったので顔を上げ方針を伝える。


「ヒカリ、とりあえず今日はこのまま帰るよ」


「えー、なんでさー。一緒にダンジョン潜ろうよー。もう一緒に行ったの一か月くらいも前だよー」


いやいやと駄々をこねるヒカリ。


「無理だよ。これから帰って世間様にどう説明するか考えなきゃいけないんだから」


「世間なんてそんなもん無視しとけばいいじゃん」


炎上しそうな発言をするヒカリ。まあ、Sランク探索者からしたら世間の反応なんて紙屑のように意味のないものなのだろうけど生憎こちらは一応でもクランという集団を率いるリーダーなのだ。


「そういうわけにはいかないよ。君たちは知らないかもしれないけどなんもないときだって月に100以上の取材依頼がネクサスに来てるんだよ? それをこんな爆弾投下したらどんなことになるか......」


ヒカリに説明していると携帯が急に鳴り出す。アオイからだ。


「もしもしアオイ。そっち大丈夫?」


「レイさん!! 早く帰ってきてください。もう電話が鳴りっぱなしで大変です。それにクランタワーの前にもすでに何人かのマスコミが押し寄せてます!!」


全くマスコミは動きが早いね。


「とりあえず落ち着いてアオイ。まず電話は電話線ごと引っこ抜いちゃっていいよ。そんで現地に来てるマスコミはライン超えた瞬間に警察に通報で。ネクサスリンクだって言えばすぐ動いてくれるはずだから」


「分かりました。そのようにします」


「うん、それじゃあそれでお願いね。俺もすぐ戻るから」


そう言って電話を切ってヒカリの方を見る。


「ね、言ったでしょ。大変なんだから」


「はーい、分かったよ。私も帰る。その代わり今度一緒にダンジョン行こうね」


渋々と納得したヒカリの誘いにはいはいと口約束を交わして雪の方を見る。


「ねえ、その配信まだ切ってない?」


「は、はい! すみません、すぐ切ります!」


慌てて答える雪。


「あ、ちょっと待ってくれる。ついでだからここで連絡しときます。今日の夜21時くらいから配信でいろいろ説明するので気になる人は見に来てください」


ドローンカメラに向けて告知をする。


「よし、これでOK。それじゃ、ヒカリ帰るよ。雪さんもまたもし会う機会があれば」


それだけ言い残してヒカリと一緒にとんでもないスピードで去っていくレイ。


「あ、はい。ってもう行っちゃった。というか全力ではないのかもしれないけどヒカリさんのスピードに軽くついて行っちゃうレイさんって......」


本当にネクサスのリーダーなんだなあと実感してしまう雪なのであった。




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