その17 漫画の秋?

「何だかんだ捌けちゃったね」

「ねぇ、絶対残るって思ってたんだけど、良かった良かった」

「やっぱり…"二宮君"…の絵が良いからだね」

「まさか、そもそも、今回はわ…僕、余り書いて無いし」


文化祭が終わった次の週の、とある平日の放課後。

私達は漫画研究部の部室に集まって、ダラダラとした放課後を過ごしていた。

文化祭に出した漫画…私達がやったTRPGセッションを題材にした漫画はそこそこ好評で、用意した50冊は瞬く間に消えて行き、見事完売(…お金は取ってないけど)したのだ。


「そうだ…来てない人多いんだけど…あの漫画見て、教えてって…結構言われてて……」

「へぇ。意外な反響。というか、どういう人が部にいるかすら知らなかったんだけどさ」

「兼部なの。バレー部に友達がいて…その子に協力してもらって名前貸してもらったから」


雑談の最中。

四橋さんが明かしてくれた、漫画への意外な反響…

その話を受けて、私とナミは僅かに顔を引きつらせた。


「そうなんだ…真面目に活動…するのも良いと思うんだけどね、なんか…駄目だ。駄目な方向に発想が行っちゃう…」

「ナミと同じかも。嬉しい反面、面倒くさいというか、今だけでしょ感が…」

「そう…だよね。私も、そう思ってたんだけど…2人が違ったらどうしようって思ってた」


私とナミが素直な本音を告げると、四橋さんは心底ホッとした表情を浮かべる。

それから少しの間押し黙ると、私達は互いの顔を見合わせてクスクスと笑い始めた。


「やっぱそうだよねぇ…今まで居なかったんだしさ、そうなっちゃうって」

「ねぇ…まぁ、でも、ね。折角の機会だし、僕たちで何かかしら考えておこうか」

「うん。そうしたい…でも、二宮君に負担掛っちゃうかな?」

「全然大丈夫だよ。そもそも、今の僕達はもう、やること無いんだよ?楽なペースでやればいいさ。向こうは兼部なのばかりなんだし」


私がそう言うと、ナミと四橋さんはパッと表情を明るくする。

面倒くさいし、色々と思うところが無いわけでも無いが…

今はそういうネガティブなことは考えないで、良い面だけを拾いたい。


「それに次の目標って訳じゃないけど…次はオリジナルのお話を何か描いてみたくない?」

「描きたい!」「やりたい…です」

「でしょ?また漫画を描きながら、簡単な事を教えてやればいいのさ。教えられるようになって一人前ってね!」


そう言って決め顔をする私。

言ってて、元々は大学を留年しているオタク女だと…自分で自分に突っ込みを入れて口元を引きつらせた。


「……?」「ハル、どうかした?」

「いや、何も…」


♂♀♂♀♂♀


家に帰った私は、普段通り夕食をとって、お風呂に入って…普段通りの生活を送っていた。

唯一違うのは、寝る前にダラダラせずPCの前で首を傾げている事…

そんな私の様子を見ていた真琴が、のそのそと私の隣にやって来た。


「ハル、何してんの?」

「ん?あー、絵、教えてって。部活で幽霊部員だった人達がね、そう言ってるらしい」

「へぇ。幽霊部員…そういえば、この間はナミちゃんや四橋さん以外見なかったわね」

「そう。正体はバレー部なんだって。四橋さんの友達経由で名前だけ貸してたみたい」

「ふーん、その人達が絵を描きたくなったと」

「そうらしいよ。それで、ちょっとね」


PCを立ち上げてやっているのは、お絵描き…ではなく、ちょっとした資料作り。

ナミや四橋さんに教えてやった時は、私の家に招いてPCを使わせたりしたのだけど、今回もその手を使う訳にはいかないだろう。

だから、簡単に資料でもまとめて…と思ってやっていたのだが…


「ハル、凄く変わったよね」


私のやってる事をきいた真琴は、目元をウルウルさせながら、そう言って抱き着いてきた。


「わっ…暑いって!」

「いや~!ハルが成長した~!!なんかそれだけでいい!今日は記念日!ハルの成長記念日!」


何かのスイッチが入った真琴に抱き着かれて、ぐわんぐわん振り回される私。

呆れ顔のまま、されるがままに、ひとしきり振り回されると、真琴は僅かに涙ぐみながら顔を真っ赤にして、私の方をじっと見据える。


「明日はお赤飯にしましょうか」

「…んなことしなくていいって!初潮か!大袈裟だなぁ、真琴は」

「だってぇ、考えてみなさいよ。年明けのハルはそんなことしなかったわよ?」

「確かにそうだけどさ」

「でしょでしょ!男の子になって良かった!」

「それは…」


私は真琴の言葉を否定しようとして、言い淀む。

勢いが削がれたのを見た真琴は、更にニヤケ顔を深めて、肩にガシっと寄り掛かって来た。


「良かったんじゃない?ただ何もしない1年よりは…ね?」

「ぐっ…面白半分で男にしといて…」

「それは、それだけど!」

「でもまぁ…良かったんじゃないの?…後少しなのが勿体ない位ね!」


私は真琴の勢いに押されて、本音をポロリと言ってしまう。

言ってしまった直後、ハッとした顔を浮かべたがもう遅い。

真琴は私の言葉を聞いて、更にニヤリとした表情を浮かべると、私をググっと彼女の体に引き寄せてこう囁いた。


「1年で終わるかどうかは、ハルが決めなさいな。よ~く考えて…?私はどちらでも良いんだからさ」


♂♀♂♀♂♀


次の日。

無難な1日を過ごし、再びやって来た放課後の時間。

私が家で適当にまとめてきた"資料"を2人に見せると、2人は目を丸くして私の顔をジッと見つめてきた。


「?」

「凄い…流石…」「ハル…やっぱり現役の大学生なんだ…今まではその影も無かったのに」

「あれ、なんか…僕の評価酷くない?」

「それは…二宮君、胸に手を当てて考えて」

「スイマセン」


私は調子に乗りかけた態度を戻して冷静になる。

自慢ではないが、この2人の前では"年上"の矜持を見せつけた試しが無いのだ。

悲しいかな、この2人に助けられた方が多いほど。


「でも、凄い。二宮君の資料…分かりやすい」

「うん。復習になるよね。私達にとってもさ」

「うんうん…これをコピーして、やってもらう感じでしょ?」

「そうだね。基本、僕は何も言わないで、2人が教える感じで良いかなって思ってる」

「どうして?資料はハルが作ったんだし…」

「言ったでしょ。教えられるようになって一人前って」

「なるほど」


資料を囲んで真面目な話をし始める私達。

ナミと四橋さんは、顔を見合わせて僅かに不安げな表情を浮かべる。


「ま、僕が居ない訳じゃないから補助は入るけどね?」

「良かった。居ないかと思った~」

「ね、安心」

「流石に渡して、後は任せた!ってのは無いよ。そこは安心して」


そう言うと、2人はホッと胸を撫でおろし…

そして日程だなんだと細かい話し合いへと入っていく。

どうやらバレー部は、秋〜冬にかけて練習試合等が無く、暇な時間が多いらしい。

空き時間、暇な時間を使って、負担にならない程度の活動が出来るように日程を詰めた。


「楽しくなりそう」


予定が大体固まった所で、連絡役の四橋さんがそう呟いて微笑む。

これから寒くなっていく時期…良い漫画の秋…になりそうだ。

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