その13 ゴールデンウィーク

(1か月前には、こんなことになるだなんて思っても見なかったんだけどなぁ…)


4月末、近所の中学校に転入した私は、新たな学校生活に順応し始めていたのだが…

慣れて来た頃に、ゴールデンウィークに突入してしまった。


(私も成長した!ってことで…)


お休みは嬉しい!最高!…

な、はずなのだが、新たな学校生活も楽しくなりだした頃だったので、GWの到来は少々残念でもあった。


(こういうの、男の立場だったのなら、役得だ!なんて浮かれるのだろうか?)


そして今、GWの2日目の午後なのだが…

なんと、私の家…真琴の部屋に、クラスの女子が2人も来ている。

1人はナミなのだが、もう1人は隣の席の四橋さん。

ちなみに真琴は"気を利かせて"外出中だ。


「す、凄いね…上手。絵、ずっと描いてきたんだね」

「うん。ありがと…(実は年上です…とは言えないよなぁ…)」


四橋さんとは、隣の席なせいか、何かある度にちょいちょい雑談する仲になり…

そこで、互いに運動は苦手な文化系人間で且つアニメ好きだと知って、彼女から「人数合わせで良いから」と漫画研究部に誘われ籍を入れてしまったのが、今日の"集まり"の切欠。


「ま、漫画もさ、本格的だよね。これ、何かに出してたりするの?」

「まぁ…これは出してないけど。他ので出したことはあるかな」

「凄い凄い!!それも見たいけど…見せてもらえないの?」

「それは…その、ペンネームバレとか色々怖いから、秘密にさせてくれると助かるかな」


GW直前、ナミが私と四橋さんの会話に混じってきた時にポツリと、「ハル、パソコンで漫画書けたよね?」なんて言ったものだから…

四橋さんが「絵描けるんだ!見たい!」等と言い出して、あれやこれやという間に私の家への来訪が決まったのだった。


(ヤバいなぁ…いい気になって色々見せちゃってるけど、これ位ならバレないよね?)


四橋さんにおだてられていい気になって、色々とイラストを見せている私。

一応、"身バレ"を防ぐために公開していないイラストだとかボツにした漫画だとかを適当に突っ込んだフォルダを用意して対策はしているのだが…

なんだろう、騙しているような気がして申し訳ない気がするし、それでもいつかバレそうな気がする。


「三國さんも、こ、こういうの好きだったんだね」

「うん!元々好きだったんだけどさ、こういうの話し合える人、中々居なくってさ」

「そうだったんだ。まぁ、私達…真逆だから…陰陽がね…」

「あー、そういうのはナシ!今からでも遅くないんだから!仲良くしよっ!」

「う、うん…あ、なら、是非漫画研究部に…」

「そうだね!学校始まったら私も入ろっかな!ハルに絵を教えて貰ってることだし!」


私のイラストを見ながら盛り上がる2人。

学校で話していた時も、少々壁があったような印象を受けたのだが…

仲良くなれたみたいで何よりだ。


(絵を趣味にしていて良かった!…のだけど、尚更この先が心配かなぁ…)


♂♀♂♀♂♀


私のイラストを見てあれやこれやと会話を弾ませていた私達。

それも、イラストの"持ち球"が無くなった事で自然と終わりを迎えて、さてこれからどうしようかとなった所で、四橋さんが背負ってきた鞄から何かを取り出した。


「それは?」


私とナミは、四橋さんが取り出した分厚い本を見て首を傾げる。


「その、こういうの…やってみたいなって思ってたんだけど…やる人、いなくて…」

「なるほど。TRPGってやつか。初めて見た」


四橋さんが持って来たのは、TRPGのルールブックというもの。

存在は動画やらなにやらのせいで知っているけれど、やったことは無い。

四橋さんが持って来たのは、定期的にSNSのトレンドに上がる、現代ホラーもののルルブだった。


「TRPGって…何?」

「んー、ナミはさ、RPGやった事ある?」

「RPG…あぁ、あるある。レベル上げするのが怠くてやめちゃったけど」

「それをね、テーブル上でやるものだよ。紙とペンを使って、ルールに則ってキャラを作って、そのキャラで、用意した物語に挑むのさ」

「へぇ…そういうのがあるんだ」


ナミに軽く説明してやると、四橋さんはそっと私達の真ん中にルールブックを置いた。


「そ、そう…動画とかで見て、良いなって思って…買ったんだけど…ね?」


四橋さんはそう言って私達の顔を見回す。

「ね?」という言葉に色々な感情が籠っているのは良く分かるのだが…

この分厚いルールブックを今から読んでゲームを開始する…というのは、中々に大変だ。


「なるほど…四橋さん…いや、秋穂!やりたい!けど…分厚いから、今日ゲーム開始ってのは難しいかも」

「全然大丈夫!私も…全部ルール分かってる訳じゃないから…でも、やりたくて…」

「ならさ、今日はルール把握の日にして、またどっかで集まってやろうよ。ゴールデンウィーク、部活無いなら…それなりに暇なんじゃない?」


私がそう言うと、2人はパっと輝いた目を向けてくる。

特に四橋さんなんかは、泣き出しそうなくらいに嬉しそうだった。


「ありがとう…部活も二宮君のお陰で廃部危機を脱せたし、今度何かお礼しなきゃね」


僅かに潤んだ口調で面と向かってそう言われると、ちょっと恥ずかしい。

私は苦笑いを浮かべて胸の前で手を振って彼女の気持ちを受け取ると、座っていた椅子から立ち上がった。


「じゃ、PCもある事だし…動画でも見ながらルルブ読もっか。飲み物取って来るね」


♂♀♂♀♂♀


「なるほど、なるほど…案外、現実味あるキャラになるもんだ」

「そうだね。如何にもホラーに居そうなキャラになっちゃった」


お茶とお菓子をちょいちょい突きつつ動画やルールを読み込んでいた私達。

その内に、キャラクターシートを使ってキャラ位は作ろう!となったのだが、我が家にプリンターなどは無い。

だから、ルーズリーフで代用してキャラクターの数値やら設定を書き込んでキャラを作り始めていた。


「なんかさ、こういうの、ごっこ遊びだなぁって思わない?」

「確かに。でも、動画見てたら、それが楽しそうなんだよね」

「楽しい…と思う。皆で一つのお話を作るの…」

「ね~…自分のキャラでどういう人なのかバレそうだ」

「ナミが元気っ子じゃなかったら…うーん、それもそれで見てみたいかも」


サイコロは適当に見つけたWebサイコロで代用しつつ、雑談で妄想を膨らませながらキャラを作り込んでいく私達。

3人全員がキャラを作っているのだが…そう言えば誰が進行役をやるのだろうか?

まぁ、それは後で考えれば良い事か。


「ハル、もし良いお話になったらさ、漫画に出来ないかな?ネタ探ししてなかったっけ?」

「あぁ、労力が凄そう…簡単な作画でも、すっごく大変だよ?記録も取らないと駄目だし」

「でも、何かで残せればなぁ…1度きりというのも、勿体ない…」


四橋さんはそう言いながら、ハッとした顔を浮かべて私の顔を見つめてくる。


「二宮君は、み…な、ナミにイラストを教えてるんだったよね?」

「え?うん」


私への確認を一つ…どういう提案が飛んでくるかが分かってしまった気がする。

私は口元を引きつらせつつ、四橋さんの言葉を待った。

出来れば拒否したいが…だが、どこか"楽しそう"でもある提案だろうから…


「二宮君に教えてもらいながら、わ、私達で漫画にする…ていうのは…どうでしょう?」

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