その11 暇つぶし
「ねぇねぇ、ハルはさ、今期のアニメ何見るか決めた?」
「んー…まだ決めてないんだよね。原作追って無いのばかりだから。ナミは決めた?」
「私も同じ~、なんかこう、どれもパッとしないから配信されてるのばっか見てる」
男になって3か月…気付けばもう4月になってしまった。
平日の夕方、学校を終えてそのまま真っ直ぐウチに遊びに来たナミと、2人で出来るゲームをしながら駄弁っていた。
「そうだ、今度は誰の絵を描くの?」
「ん?んー…まだ決めてないな。そろそろ漫画でも書こうかなって思ってるんだけどさ」
彼女に"元女"だとバレて半月、割と酷いバレ方をしたと思うのだが…
それからも"友達"として私に向き合ってくれた彼女には、私の趣味も、何もかもをカミングアウトしてしまっている。
だから、男と女…男女2人という空間なのに、私達の間に、男女間に流れる変な緊張感はこれっぽっちもなかった。
「漫画!そう言えば書いてたよね…その、"R18"な絵も」
「……まぁ、今回は全年齢向けにするけどね?」
「私は"ソッチ"でも良いけどなぁ~…」
「ダメダメ!そういうのはまだ早いっての!」
彼女からの弄りを適当に受け流す私。
ナミは「えぇ~」と不満を露わにするが、彼女はまだ中学生。
立ち振る舞いのしっかりさん具合から、もう大人に見られてもおかしくはないのだが、そういうのを見るには、まだまだ早い。
「その分、ナミの好きな様に描くからさ。何か案出してよ」
「いいの!?…というか、ネタ、無いの?」
「ぐっ…な、無いんだよねぇ…」
「分かった。エッチなのばっか書いてたからネタが無いんだ?」
「はい、ソウデス…ソノトウリデス」
「ふ~ん…そうなんだ~」
ゲームをしつつ、私の方にそれとなくニヤニヤした目線を向けてくるナミ。
私は顔を赤くしつつ、僅かに彼女から目を逸らして背筋を丸めた。
今、私の体は男の子…こう言う話題になると、どうしても彼女の女の部分を気にしてしまい、体が反応してしまう。
「考えとくよ!」
「お、お願い…ね?」
今の彼女は学校帰りで、セーラー服姿なのだ。
今の私達は隣同士座り合ってゲームをしてるのだが…こう、ボーイッシュな彼女らしく?胡坐をかいて座っている姿をチラリとみると、見えそうで見えない様子が見えてしまう。
「あ、ナミ。そこのアイテム取って!」
「え?あ、これか!」「ありがとっ!」
私は僅かに挙動不審になりながら、私の気持ちを彼女に勘付かれない様に誤魔化し続けた。
家に遊びに来て、彼女がやりたい!と言ったのがゲームで助かっている。
これで、「ハルが絵を描くところを見たい!」何て言われた日には、色々と大変なのだ。
「あ、ハル~、そう言えばさ」
「?」
♂♀♂♀♂♀
ゲーム中、ナミにとある質問をされた私は、その質問に答えを返す事が出来なかった。
その質問に答えるには、ちょっとした"敵"を倒さねばならなかったから…
「真琴、ちょっといい?」
「ん?…いいけど、どうかした?」
答えを先送りにしてナミが帰った後。
真琴が大学から帰ってきて、2人で夕食をとっている時に、私はナミから言われた質問の話題をそっと繰り出した。
「ナミからさ、ハルは学校に通えないの~?って言われたけど、無理だよね?」
少々早口で言ったナミからの質問。
真琴はそれを聞いた瞬間、持っていた箸を落とし、ポカンと口を開けた。
「ね~、流石に無理があるでしょ?1年もいれないしさ」「行けるよ!」
「…無理だよね?」
「行ける!戸籍とかは何とかできるし、今から手続きすればGW前には編入できる!」
「…マジ?」
無理だと思って質問したのだが…真琴は凄く乗り気だ。
私は背筋に冷たい物を感じつつ、引きつり笑いを顔に貼り付けて首を横に振った。
「でも、今更中学って。それも男として過ごすんだよ?」
「過ごすんだよって、過ごせてるじゃない」
「それに、この間みたいにバレでもしたら…」
「ナミちゃんもいるし大丈夫でしょ。それに、ずっと家に引きこもってても毒だしね」
私は余計なことを言わず、ナミには"無理だよ"と答えておけば良かったと後悔する。
だが、もうすでに遅い…真琴は私をジッと見つめてきて、どこか悪戯っ気を感じる笑みを浮かべていた。
「学区もナミちゃんと同じだしね。学ラン着て通うっての?貴重な経験じゃない?」
「貴重な経験って…そんな経験したいとも思った事ないんだけど」
「それにさ、ハル…確か、こう言うの描いてたよね?」
「…ん?」
その直後、真琴が私に言った一言は、私の中の何か…
最後の一線を崩すには十分すぎる一言だった。
「だよね~、ハル君。ちょっと行きたくなって来たんじゃない?」
♂♀♂♀♂♀
「でもさぁ、やっぱ無理だよ。中学生だったのなんてもう何年前さ」
「ウダウダしてるなぁ…男らしくないよ?」
「男じゃないもん」
「……」
夕食も終わって、今はお風呂上がり。
寝間着に着替えた私達は、部屋のモニターを付けて適当な配信番組を見て駄弁っている。
その中で私がさっきの話をぶり返すと、真琴はニヤニヤしながらスマホの画面を見せてきた。
「それに、さっきは行く気になってたじゃない。だからもう送っちゃった」
「はぁ!?」
見せられたのは、真琴とナミのロイン…
私がGW前に転校生として学校に通い始める事を伝える真琴の文と、喜びの返事を返すナミのやり取りがしっかり記録されていた。
「外堀埋めるの早すぎ…」
「勢いは大事でしょ?」
「大事でしょって…勢いに任せたからこんな体になってるんでしょうに…」
「まぁまぁ、毎日家でPCの前に座ってボーっとしてるよりは、誰かと接しなさいな。ナミちゃんも居るんだし大丈夫だって」
真琴はそう言ってバン!と私の背を叩く。
そしてグイっと、私の背中に寄り掛かると、真琴は私の耳元でボソッと囁いた。
「人と関われるようにならないと。戻ったら、もっと悲惨になるだけよ?」
マジトーンの一言。
私は表情を消して背筋を凍らせると、ジトっとした目を真琴に向ける。
彼女が私を思ってくれていることは十分に分かる…分かるのだけども…
「分かったって…」
私は気持ちの混乱を上手くかみ砕けず、不服そうな声を上げてそっぽを向いた。
真琴もそれ以上何を言うわけでも無く、スッと私の背中から避けて隣に戻ってくる。
(学校かぁ…まさか、行く羽目になるだなんて…)
私は今日決まったとんでもない決定事項を頭の中で反響させながら、暫くそのことで頭を悩ませるのだった。
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