その10 まさかの来客

「お邪魔しまーす!」

「ど、どうぞ…」


三國さんと知り合って数日後のとある平日の昼下がり。

ひょんなことから、三國さんが家に来てしまった。


(真琴には一応ロイン打っておいたけど…まだ既読が付いていないんだよね…)


「どうかした?」

「い、いや!?別に大丈夫…」


ゲームセンターで知り合って以降、ロインを交換して…

やっていたゲームが同じだったからゲーム仲間になって…

順調に?三國さんと仲を深めていた私だったが、家で遊ぶ日が来るとは、ちょっと想定外。


ゲームをやっていた時、流れで「今さ、暇?」「暇」だなんて会話をしてしまった事から起きてしまった突然の自宅訪問イベント…

急いで部屋を片付けて、"アレコレやった"痕跡を消して迎え入れる頃には少々疲れていたのだけども、それはまぁ、別のお話だ。


「あ、これお土産ね~」

「ありがとう…あ、これケーキだ」

「そう!近所のケーキ屋さんのなんだけど、美味しいんだよ」

「へぇ…(コッチに来て2年ちょっと、知らなかったよ…)」


三國さんからお土産を貰った私は、彼女を連れて居間の方へ。

私と真琴の2人暮らし、大して広くもないアパートの一室…私は顔を僅かに赤くしながら、どう彼女を持てなそうか頭を悩ませていた。

生憎、真琴意外と遊んだ記憶は殆どなく…真琴が結構"規格外"だったから、普通というものを良く知らないのだ。


「折角だしさ、今食べちゃわない?」

「え?良いの?…というよりも、親御さんは…?」

「言ってなかったっけ?姉と2人暮らしって。今は大学行ってるから…適当なとこに座ってて。今、飲み物持ってくから」


三國さんが持ってきたケーキ入りの紙袋を彼女に渡してそういって台所へ向かう私。

とりあえずその場しのぎには成功しただろう…

三國さんは「そう…だっけ?」と、どこか顔を赤くしながら居間に置かれたテーブルの方へと向かってくれた。


台所の冷蔵庫を開けた私は、パッと目についた缶のコーラを2つ取って、戸棚から2人分の取り皿とフォークを取って居間に戻る。


「お待たせ~」


戻ると、ソワソワした様子の三國さんがビクッと私みたいな反応を見せる。

それを見て小さく笑うと、持ってきた物をテーブルの上に置いて、彼女の座った場所の反対側に腰を下ろした。


「さ、食べよ?」


♂♀♂♀♂♀


「ごめんねこんな殺風景な所で…」

「い、いや、大丈夫だよ!?私こそ、急に行きたいなんて言ってごめんね?」

「全然、退屈してたから」


三國さんとお茶会…?いや、おやつタイム…だろうか。

私は三國さんが持ってきてくれたケーキを食べて、甘さと美味しさに目を細めると、三國さんがクスッと笑った。


「ハルってさ、なんか可愛いよね」

「な、何さ急に!?」

「私が知ってる男の子って、もう、ガサツなのしかいなくて。可愛い系が珍しくってさ」


元の調子を取り戻した三國さんの言葉にショックを受ける私。

分かっていたけれど、男の子の姿で可愛いという言葉を貰っても、余り嬉しくなかった。


「可愛い系…かわいい…なんか、複雑…」

「いやいや!自信もって良いって!不相応にカッコつけて自爆してる男よりマシだから!」

「そうなのかな…」

「そうそう!なんかねー、ハルって女の子っぽさもあるのに、ナヨナヨしてなくて、芯があるから…アレだね!アイドルグループとかに居そうだね!研修生って感じ!」

「なるほど…なるほど?」


三國さんに言われた事を脳内で反響して、そして顔を赤らめる。

ストレートな物言いではないが、今、私は褒められてるのではなかろうか。

私は顔の赤さを誤魔化すために窓の外に顔を向ける。


「そういえば…その、み、三國さんは…何か部活とかやって無いの?」


強引な話題転換。

三國さんは私を見て一瞬目を点にしたが、すぐに優しい笑みを浮かべて首を横に振った。


「全然。1年の時、途中まではバスケ部だったんだけどね。ドロドロしてて辞めちゃった」

「へぇ…そうなんだ」

「ま、部活なんてやらなくても平気!ウチ、親が道場やっててね。そこで体動かしてるの」

「凄いね。わた…ボクなんてすぐのされちゃいそう」

「そんなことしないって!寧ろ護ってあげる!」

「それは…こう…お、男として情けない…気がするなぁ」


そう言って頭を掻く私。

情けないことだが、今の私では護られる側にしかならないだろう。


「情けないけど、いつか三國さんに護ら…」


そう言いかけた時、バン!と玄関の扉が開かれる音がして、私達は揃って体を震わせる。

真琴が帰って来た…!?思いがけない事態に、私の心臓は一気に早鐘を打ち始めた。


「ただいま~!」


♂♀♂♀♂♀


「あら?…ららら…?…あっ、あー、そう言う事」


玄関の異変に気付いて声を上げ、そのまま居間までやってきて異変の主を見た真琴。

戸惑いの表情を浮かべていたが、すぐに状況を察知したのか、ニヤニヤした目線を私に向けてきた。


「いらっしゃい。ハル君のお友達?」

「あ、はい!お邪魔してます…三國ナミって言います!」

「よろしくね。私は二宮真琴。ハルの姉です。それじゃ、隣に居るから、ごゆっくり~」


挨拶もそこそこに脅威が去っていく。

真琴は、私にだけ分かるように"悪戯っぽい"ニヤケ顔を向けて寝室へと入っていった。


「邪魔になっちゃうね…」

「大丈夫だよ。姉ちゃん、帰ってきても寝るだけだから」

「そう…?なら、尚更うるさくしちゃ駄目なんじゃ…」

「大丈夫大丈夫。気にしないで!その…あっ…!」


真琴の襲来で、一気に遠慮がちになった三國さんをなだめる私。

後で真琴から"散々弄られる"のは間違いないから長くいて欲しいし…

なにより、真琴が帰って来たからお開きというのも、三國さんに悪いだろう。


「この前言ってた絵でも見ない?描いてる途中だけど。見たいって言ってなかったっけ?」


私は彼女との"共通の話題"で盛り上がるために、居間の隅に避けてあった私のタブレットを取って机の上で電源を入れる。


「ほら、今期やってるアニメのキャラ!どう?」


そして、チマチマと描いている最中の絵を三國さんに見せてやると、遠慮がちだった三國さんの顔つきが一気に変わった。


「え?凄い!ハル、絵、上手過ぎない?」


絵を描いてる事は伝えていたのだが、ボイスチャットが主だから絵は見せていない。

三國さんは私の絵を見て、絵描きとしては凄く有難い反応をしてくれた。

私は彼女の嬉しそうな顔を見て口元を綻ばせると、これまで描いてきた絵を見せるために画像フォルダを開いて見せる。

それから日が暮れるまで、私の絵を見ながら、私達はオタクトークを弾ませるのだった。

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