その9 ゲームセンター

(やっぱ騒がしいなぁ…)


男になって早2か月…そろそろ春、新学期の季節と言える頃。

とある平日の午前中、私は、着せ替え人形にさせられた時に買った春物の服に身を包んで、近所のゲームセンターにやってきていた。


(怖いもの見たさなんだけどね)


今となっては珍しくなった、単体で建っているゲームセンター…

私は閑散とした店内を見回しながら、適当に遊べるゲームを探しつつウロウロし始める。

本当は来る気など無かったのだけど、この間真琴に聞いた"危ない噂"を確かめたくなって、つい足を踏み入れてしまったのだ。


今は男…といっても、こんな貧弱な男じゃ頼りないにも程があるが…

それでも、女の、ましてや喪女と言えるような形態よりはマシなはず。

それに、今の時期はどこも春休みだろう。

だから、こんな時間に子供が1人でウロウロしててもおかしくない…はずだ。


なにはともあれ、私にとっては久しぶりのゲームセンター。

私は目に付いたUFOキャッチャーに吸い寄せられる。

丁度追いかけていた漫画のフィギュアがズラリと並んだUFOキャッチャー…やらない訳に行かないだろう。


(噂程荒れて無いし、案外平和だね~…)


お金を入れて適当に操作を始める私。

この手の確率機は、まず最初の操作で落ちると思ってはいけない…

案の定、私の最初のトライは、フィギュアの箱を掴んで持ち上げたところでアームの力が弱まり、箱がポロリと落ちてしまった。


ワザとらしい失敗音…煽られたような気分になった私は、無言で2回目のチャレンジを始める。

1回目の挑戦で、アームで掴むと、ある程度商品が"揺れる"事が分かったから…

こうなれば、愚直に挑んで確率を引くのではなく、揺らしてフィギュアを出口に放り込んでやろう。


(このやり方が駄目なわけ無いでしょ…?箱についてる輪がそんな感じだしさ)


少々意地になってる気がするが、煽ってくるゲーム機がイケないんだ。

私はジーっと眺めて作戦をたてて…どうにかして箱を落す道筋を考える。

位置的には、1回で落せる距離にいる…私は作戦を決め、意を決してレバーを動かし始めた。


「いけ…どうだ?」


真剣な表情でレバーを動かし、フィギュアの箱に付いてる輪をアームで引っ掛ける。

そしてそれを持ち上げて…イザ勝負…!!


「よっし!!」


思惑通り…持ち上げられてゆらゆら揺れたフィギュアの箱は、アームの力が弱まって外れた所で落下を始めるが…アームの移動で揺れていたせいで、落ちた先は取り出し口…

見事、2コイン…200円でそこそこの出来のフィギュアをゲットした私は、1人ガッツポーズをしたのだった。


「凄い、お見事!!」

「え?」


♂♀♂♀♂♀


UFOキャッチャーの前でガッツポーズをした私は、背後から声をかけられた。

取り出し口からフィギュアを取る前…私は分かりやすくビクッ!と体を跳ねて、ガタガタ震えながら後ろを振り返る。


「ゴメンね、驚かせちゃったかな?」


背後にいたのは不良…ではなく、私より僅かに背が高い…同じ年位の女の子だった。

ショートカットなこげ茶髪を持ち、活発でボーイッシュな感じを受けるイケメン美人…

スタイルも良く、スラリとした体躯で…長い手足にちょっと惹かれてしまう。


「え?あっ…う、うん…ちょ、ちょっとね!…ちょっと…」


私は明らかに狼狽えつつ、落とした景品を取り出し口から取って女の子の様子を伺う。

彼女はそんな私の様子を見て目を点にすると、私が手にしたフィギュアの箱をジーっと眺めてニコっと笑った。


「そういうのが好きなの?」

「う、うん…」


初対面の子…まして、年下の子なのだが…上手く反応できない私がもどかしい。

私は顔を少々赤くして、明らかに挙動不審な様子を隠すことが出来ずにいたが、彼女にとってはどうでも良いようだった。


「そうなんだ。ウチの彼氏もそういうの好きだったんだぁ…深夜アニメでしょ?それ」

「は、はぁ…そう…だけど」

「でもねぇ、デートすっぽかされてさぁ。ロイン見たら別れよう!って。酷くない?」


突然の愚痴語り…見た所、中学生位の子だと思うのだけど…どうも語り口が大人びてる。

私は苦笑いを浮かべつつ、これをどうしたものかと悩んでいると、目の前の女の子は私の目をジーっと見つめて、そしてハッとした表情を浮かべた。


「で、当ても無くブラついてたんだけど…そう言えばキミ、見かけない顔だね。学区違いなのかな?」

「あ、あぁ…た、多分。そうだと思うけど」

「そうだと思うって…?どゆこと?引っ越してきたばかりとか?」

「う、うん…そうなんだよね。最近、越してきて…さ?」


イケメン美人に見つめられてあたふたする私…

"男の子"の部分が反応しているというよりは、私特有のコミュ症を発揮しているだけ…

彼女はあたふたする私を見て、どこか真琴に似たニヤケ顔を浮かべると、ガシっと私の肩を掴んでこういった。


「へぇ…ならさ、ここで会ったのも何かの縁。遊ぼうよ。こっちに来て初の友達は私!ね?どう?」


♂♀♂♀♂♀


「そうだ。今更だけど…私、三國ナミっていうんだ」

「あ、わ、ぼ、ボクは"二宮"ハル…み、三國さんは、幾つ…?」

「ナミで良いよ。今は中1。春から中2だね」

「そ、そうなんだ…ボクも同じ…なんだよね」

「やっぱり!なんかそんな感じがしたんだ~」


三國さんと知り合って数分後…私達はゲームセンター2階の休憩スペース的な所でジュースを飲みながら雑談をして仲を深めていた。

この体で…この状態で初の"同世代"の知り合い…私はボロが出ないか心配で仕方が無かったが、三國さんのあっけらかんとした、表裏の無い様子を見て徐々に警戒が溶けていく。


「ハル、危なかったんだよ?1人でこんな所来てさ。最近は物騒なんだし」

「そうなんだ…知らなかった。人も余りいないし…平気かなって」

「今日は偶々!私だって、近くの高校生が居なければ入らないもの」

「へぇ…」


私は店内を見回しながら感嘆の溜息。

今日は閑散としていて、どこか物寂しい感じがするのだが、運が良かっただけらしい。


「こういう日がチャンス!ハル、後でそのフィギュア、1つ取ってよ。お金出すからさ」

「え?う、うん…それなら、これ上げるけど」

「え?いいの?」

「うん。まぁ、ボクも暇つぶしで入っただけだしさ…欲しいなら上げる」


私はそう言ってフィギュアの箱を三國さんに押し付けた。

彼女は少し驚いた顔を浮かべてそれを受け取り、僅かに遠慮したような感じを出すが…すぐに割れんばかりの笑みを浮かべる。


「ありがと!なんか、今日は最悪な日だ~って思ってたんだけど、最高な日になったよ!」


そして、純粋無垢な一言が私に降って来た。


「可愛い男の子がいるな~って話しかけたんだけどね!何があるか分からないもんだね!」


三國さんの言葉に頷く私…全く同感だ。

私は顔を少し赤くしつつ、それから暫く三國さんと安全なゲームセンターデートを堪能するのだった。

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