その4 親友…?
男になってしまった次の日の朝。
私は真琴の家で目を覚ました。
「……なんか痛いんだけど」
目を覚ましたのは真琴の部屋…真琴のベッド…真琴の隣。
修学旅行の日の朝、男子の一部が前かがみになっている理由が分かった気がする。
私は股間の違和感と格闘しつつ、まだ起きてこない真琴を起こさぬようにそっと居間の方へと移動した。
「何処置いたっけ………?」
居間へ行き、そこからアイランドキッチンへ…
昨日買っておいた菓子パンを探して取って、冷蔵庫からパックの豆乳を取り出し、先に朝食を摂ることにした。
「ん…」
居間に戻り、スマホに適当な動画を流しながらの朝食。
昨日までは、女の姿で当たり前のようにやっていたことでも、男としては"初体験"…ちょっと新鮮だ。
ただの菓子パン…クリームコッペパンに、ココア味の豆乳。
それを、胡坐をかいて食べるだけ…そう言えば、女だった頃と比べて座り方が違う気がする。
「ほほぅ…?」
そういえば…という感じの顔になる私。
試しに女だった頃の座り方をやってみれば、僅かに股が痛くなった。
これが男女の違いというモノか…苦笑いを浮かべつつ胡坐に戻ると、ふと視線を感じて寝室の方へ顔を向ける。
「っ…ふ…ふふふ…アッハハハハハハハハハ!!!!!!何やってんのさ朝から!!!」
扉の隙間から顔を覗かせていた真琴が、僅かに肩を震わせだした。
徐々に笑い始め、やがて一気に発散する。
私は目を点にしたまま、顔を真っ赤にして俯いた。
「うっさい!ちょーっとね!女との違いを体験してただけじゃない!」
「そうなんだ!なんか、可愛いなぁって思ってさ。可愛い男の子が不思議そうな顔しながら女の子座りしてるの!!あー、朝から良いモノ見れた~…おはよう!ハル!」
「はいはい、おはようおはよう!」
顔を真っ赤にしたままの私。
真琴は爆笑しつつ居間へとやって来ると、さっきまでの私と同じように朝食と飲み物を持って私の隣にやって来た。
「何見てんの~?」
「ん、昨日見てたやつ。何て言うんだっけ?」
「あー、"めぐめぐ"?」
「そうそう、それ」
「新しい動画出てたっけ?」
「出てたのさ、今朝出てる。何時寝てるんだろうね?」
「ね~…この人、動画出し過ぎて他に何もやって無さそうじゃない?」
「確かに~」
ひとしきりの後、"いつも通り"な感じになる私達。
暫し平和な時…だが、軽すぎる朝食を終える頃、ふと真琴の目がこちらに向けられた。
「そうだ。ハル、今日はそこそこ忙しいからね?」
「なんか急に現実に戻された気がするんだけど」
「そうよ。色々と"手続き"しないと。昨日伝手を頼って準備はしてもらってるんだけど」
真琴は真面目な顔をしてそう言うと、彼女のスマホを取ってきて画面を私に見せてくる。
見ると、そこにはお役所で出て来そうな書類の写真が映し出されていた。
どうも戸籍…?とか、その辺の書類の様だ。
「…戸籍?」
「そー、仮のだけどね。一時的にでも、家の人になるってわけ」
「はぇ〜…何が何やら。何さ、私が真琴の家の…もしかして、真琴の弟にでもなるっての?」
「その通り!」
真琴は急にテンションがMAXにハネ上がる。
私は思わず仰け反り、そして唖然とした顔を浮かべた。
「え?え?…話に付いていけないんだけど!どういうこと!?」
「だから、ハルは、私の弟になるの!年は…大体12歳って所じゃない?春から中学生!みたいな」
「え?え?もしかして、学校にも行けっていうの?この体で?というか、何時までこの体なのさ!!」
「学校はまぁ…行かなくても良いんじゃないの?ハルも大学生なんだし。体の方は…魔術を解除する時次第なんだけど、解ける人が暮れ頃にならないと日本に来れないって言うんだよねぇ…」
サラリととんでもないことを言われた気がする。
私は唖然とした表情を更に深め、エヘヘと笑う真琴に向かってずいっと体を乗り出した。
「あの…うん。大学は、この際いいや。どうせ留年だったろうから…1年位…でも、ね?親とかその辺、私にも色々あんだけど…」
ワナワナと震えながら、一番心配していた部分を尋ねると真琴は「なんだ、そんなことか」と言いたげな軽い表情を私に返す。
「もうハルの親には伝えたよ。真っ先にね!」
「えっ…」
アッサリ回答…呆気に取られる私。
真琴は得意気にそう言うと、スマホを操作して私の母親とのL〇NEを見せてくる。
そこには凄く軽いやり取りで、私が男になったという報告と、男になった私が気持ち良さそうに寝ている画像があった。
「ちょっちょっとぉ!いつの間に撮ったのさ!じゃない!いつの間に…いつの間に…言ってたのさ」
「昨日、ちょっとお昼寝タイムだった時にパシャリと…軽めのやり取りだけど、そこは…その、色々と説明してるからね?」
真琴のいう通り、軽いやり取りの上には通話した跡が見える。
私はそれを見せられた後に脱力すると、目から光が消えていくような感じでへにゃっと床に倒れ込んだ。
「なんか安心していいんだか、どうなんだか…」
女から男に変わって…それも、私好み?な可愛いショタ君になっちゃった二日目の朝。
へちゃくれた様子になった私を、真琴はニヤニヤとした"色気のある"笑みを浮かべて見下ろすと、"何も気にすることなく"こちらに前かがみになってこう告げた。
「ま、ハルことは"全部"私に任せて!これから1年弱、男の子の生活をしながら…ちょっとしたモラトリアムを楽しめば良いのよ。お金も暮しも何もかも!心配することはないからね!?」
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