その3 お風呂

「遂に来てしまったか…」


私は真琴の部屋の脱衣場で、鏡を前にしたまま突っ立っていた。

最初に着替えた時に全裸を見ているのに、何故か脱ぐ気が起きないまま立ち尽くし早5分。


「どうしよう」


 ・

 ・


今日から過ごす真琴の部屋…何度も来たことがあるから気負う事も無いかと思ってたのだが、敷居を跨いだ時からその考えは撃ち砕かれてしまった。


彼女が男と付き合いだしたのは何時からだったか知らないが、そこから真琴の部屋で同棲しだして、彼女と遊ぶとなれば私の部屋ばかりになっていたから、部屋に入ったのは随分と久しぶりだったのだ。


それの何が問題か?

大問題だ。今の私は男!部屋に入れば、彼女の女である部分をモロに意識してしまう。

香水というか…フレグランスの効いた甘い部屋の匂いに、部屋着に着替えて"色々と"チラ見えしてしまう真琴の体…"中学生"位の男子になってしまった私には、辛い空間だ。

反応したくないのに顔が赤くなり、股間がムズムズしてしまう。


それでも、買い物の後片付けに、私の"パーソナルスペース"の確保諸々を終えて一段落付けられた。

夕食も食べて、私達がハマっている動画配信を見て談笑して…"他愛ない日常"が戻ってきたのもつかの間。


何気なく放った真琴の一言が、私を"男"だという現実に引き戻す。


「そうだ。お風呂入らないとね!一番風呂は譲るからさ」


 ・

 ・


そんなこんなで、私が異議を唱える間も無く進み、来てしまったお風呂の時間。

入らないわけにはいかないのだけど、だからといってすぐに入れるものでは無かった。


「あれれぇ?ハル君~、お風呂、まだ入らないの~?」

「うっさい!ごめん!待って!後少しで入るから!!」


脱衣所の扉の外から聞こえた真琴の煽りに、顔を真っ赤にして返す私。

そこからふぅ〜っと息を吸って、息を止め、目を瞑ると着ていた服に手をかけた。


「~~~!!!」


上半身の服を脱ぎ去り、下半身へ…女子の頃から比べれば、男は大分"楽"だと思う。

バッと脱ぎ捨て、全裸になった私は、鏡に自らの姿が映る前に風呂場の扉を開けて中へ飛び込んだ。


「ふぅ…」


ムッとする風呂場に立ち尽くして一呼吸…

ようやく落ち着いたところで、洗い場の前に座る私。

目の前には鏡があるわけだが、湯気と湿気のせいで雲ってしまっていた。


「見えないうちに…」


鏡を直視しても"美少年"が見えない安心感。

自分じゃなかったら、確実に"妄想"してしまう姿なのだ。

私はシャワーで全身を濡らした後、真琴の使ってるシャンプーのボトルを取って頭を洗う。


(これ、楽かも)


女子だった頃なら、少々長い髪をしていたせいもあってか洗うのが大変だったのだが…

男の子というものは楽なものだ。

濡らして、シャンプーを付けて洗えば良いだけじゃないか。

サッとシャンプーを流して、リンスも済ませて私は顔を上げた。


「あっ…あー…」


そこでようやく"全裸の少年"とご対面。

顔は真っ赤になったのだが、自分の姿に"反応"はしないらしい。

私はボーっとした表情で鏡に映った自分を見つめる。


水に濡れた中学生程度の男の子…上半身だけなら、プールでも見られる格好だ。

あどけなさが残った可愛い顔、可愛さも残ったまま、男らしくなった首や肩。

脇に毛は生えておらず、フラットになった胸には筋肉?の様な固さを感じられる。


そこから、自然と視線は下に向けられた。

腹筋が僅かに割れていながらも、大人のそれとは違うお腹…

そして、まだ"毛が生えてない"股に…女には無い棒状のモノ…あれ、棒状?


「え?」


顔を下ろして"秘部"を見下ろした私は、思っていた以上に小さな"ソレ"に驚いた。

トイレも既に"経験"したし、見慣れてはいないが"動作確認済み"なモノなのに、何かこう、小さいのだ。


(こんな小さくなるんだ…どうして?)


顔を赤くしながら、小さなそれから目を逸らすと、私はボディタオルを取った。

それにボディソープを付けると、泡立てて体を洗っていく。


「……ん?」


普段の感覚で擦ってみると、どうも"洗ってる"感触を感じない。

僅かに力を入れて擦ってみると、丁度良い感じで、僅かにあった痒みも消えていった。


「へぇ…」


女との違いを感じながら、私は少しだけ頬を綻ばせる。

男の方が、全体的に楽だ。

いや、身なりに気を遣うのなら大変なんだろうけど…

少なくとも、今の子供姿では女と比べ物にならない位に気楽に済ませられる。


「んー、ふーん…んーー」


鼻歌混じりで体を洗い、全身を泡だらけにしたところをシャワーで一気に流し落とす。

元からすべすべだった肌は、更に輝きを増した様だ。

鏡越しに映る姿が、心なしか最初の時より色っぽく見える。


「ほわぁ…」


鏡に映る姿に見惚れてしまう私。

それが自分の姿だと思い直し、ハッとした様に目を見開いて、頬を数度叩いて"元に戻る"と、洗い場を片付けて湯船に浸かった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


程よく温かい、入浴剤入りのお湯。

長い溜息をつきながら肩まで浸かり、ホッと一呼吸。

"真琴の匂い"に包まれて気分を落ち着かせたとき、私は下腹部に違和感を感じた。


「……んっ」


足を伸ばせる程の浴槽、私の家の小さな浴槽と違い、座るだけで腰など痛くならないはず…


(いやいやいやいやいや……)


私はこの現象の"理由"を知りながらも、それに意識を向けたくなかった。

頭の中で必死に、今期の推しアニメを空想して"邪念"を晴らそうと努力する。


だが、体は中学生の男の子…

邪念を晴らすべく空想していたアニメの、"ちょっとアブナイ光景"が脳裏に映ると、下腹部の違和感は更に増していった。


「ぐぬぬぬ…男の子も、こんなにエッチなのね…」


幸いにも、入浴剤のお陰で"惨状"は見えないのだが…

私は男の子の"欲"に体中を疼かせながら、お湯を体にしみ込ませた。

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