第34話 力の使い方を工夫したり、魔王を倒したり

「じゃあ、封印を解くよ。準備は良い?」


 勇者神殿の中心、広く、天井の高い封印の間で、床に描かれた封印の魔法陣を見つめながら長尾さんが俺たちに尋ねた。


「ああ」


 俺たちが答えると、彼女は何やら魔力を集中させ、床の魔法陣にトン、と手をついた。ふっ、と魔法陣が光を失い消えていく。そして魔法陣の中心だった場所に、何かどす黒い雲のようなものが集中していった。それが次第に、何かを形作っていく。

 黒い雲のようなものが切れると、中からどっしりとした四本足で、背中に大きな翼を持った黒い竜が姿を現した。真紅の瞳を輝かせて、鋭い牙を剥き出して笑っている。


「これが……魔王?」

「多分ね」


 魔物を統べる魔物たちの王、というわけではなくて、強い魔が一番強い魔物を形作った、という感じだろうか。とにかく、今まで戦ってきた魔物とは比べ物にならない、ということは分かる。何にせよ、こいつを倒さなくては始まらない。


『お前たちの生命を寄越せ。喰らいつくしてくれる』


 恐ろしい声が直接頭に響いてきた。交渉の余地なんてなさそうだ。人間の命を奪う事、それが魔王の目的らしい。これは制御不可能な、根本的に人間と敵対するもののようだ。

 と、そんな悠長なことを考えている場合じゃない。竜の口から黒い炎が吐き出される。


「アイス・シールド!」


 クレメンティアが氷の盾を造りだし、黒い炎を防ぐ。


「ウィンド・カッター!」

「アイス・ジャベリン!」

「フレイム・セイバー!」


 魔王が炎を吐き終わったところに合わせて、俺たちは次々と攻撃を仕掛ける。魔王は避けることも、防ぐこともしなかった。攻撃は次々と当たり、竜の体に傷を刻んでいく。だがそれは、すぐにすうっと消えて行った。


「再生能力……?」

「だが、無限ではないはずだ。とにかく、倒せるまで攻撃するしかない!」


 ウィルトゥスが再び魔王に向かっていく。近づけさせるかと魔王が吐いた黒い炎をかいくぐり、魔王を何度も斬りつける。回復できるとはいえ斬られるのは不快だったのだろう、魔王が尾を振り、ウィルトゥスを振り払おうとする。


「くっ……」


 避けて後ろに飛んだものの、攻撃を受けてしまったらしい。ウィルトゥスが胸のあたりを押さえて膝をついていた。


「ウィルトゥス⁉」


 クレメンティアが回復させる。


「すみません、ありがとうございます、クレメンティア様」


 再生にも力を使うし、どこかでそれが尽きるのも恐らくそうだ。でも、問題はそれがいつか、ということだ。魔王が力尽きるより早く、俺たちが力尽きてしまいそうな気がする。

 回復を阻害する方法……何かないか? でも、回復呪文を唱えるならそれを防げばいいけど、そういうわけじゃなくて自動で発動するからなあ。回復させないっていうのは無理だ。

 あ、回復させすぎることにより相手を傷つけるっての、ファンタジーじゃ回復係の定番だよな。それ、できないかな? 魔王が回復するのに合わせて、通常以上に回復させる。それによってぶち壊す、っていうの。

 できるかできないかじゃない。やるんだ。自分以外を回復させることは出来たんだから、後はタイミングと量に気を付ければいいだけだ。


「ウィルトゥス、悪いがもう一度攻撃してくれ! 一旦攻撃したら、即離れて!」

「トム? 何か、考えがあるんだな? 分かった!」

「長尾さん、クレメンティア様、サポートお願いします!」

「うん!」

「わかりましたわ!」


 ウィルトゥスと俺はもう一度魔王に向かっていく。魔王が黒い炎を吐いてきたが、それはクレメンティアの氷の盾に阻まれた。

 ウィルトゥスが炎の剣で斬りつけ、俺に言われた通りにその後すぐに後ろへ飛ぶ。回復していく魔王に、俺は過剰に回復して壊れる姿を思い浮かべながら手を触れる。ボン、と爆ぜるように攻撃された魔王の前脚あたりの肉が飛び散る。


「何が起きた⁉」

「説明は後だ! 今と同じようにやるぞ!」

「分かった!」


 ウィルトゥスが斬りつけ、魔王が回復するところに俺の回復魔法をぶつけ、壊していく。魔王も異常事態を感じ取ったのだろう、尾を振り俺たちを振り払うと、そのまま俺たちから離れようとする。


「逃がさない! アース・バインド!」


 長尾さんが魔法で拘束する。だけど拘束し続けるのはかなりきつそうだ。ここで一気に畳みかけないと。

 ウィルトゥスが斬りつけ、俺が回復させて壊す。それをひたすら繰り返す。魔王が仕掛けてくる攻撃は、長尾さんとクレメンティアが防いでくれた。

 どのくらいくり返しただろう。ついに魔王の体がはじけ飛んだ。黒い竜の形を保てずに、小さな黒い粒になって霧散していく。


「やったな! トム!」

「ああ、やったな、ウィルトゥス!」


 俺たちは、パチンと手を合わせる。そしてその場にへたり込む。疲れた。


「凄かったよ、二人とも!」

「やりましたわね!」


 長尾さんとクレメンティアが駆け寄ってきた。

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