第29話 襲われたり、戦ったり

 勇者神殿までの道のりは順調だった。神殿騎士二人の案内で森の中を進んでいく。森の中、といっても道は馬車がすれ違えるくらいには広く整備されているし、日差しも明るいから不気味な感じなどはない。もちろん魔物は襲ってくるけれど、それはいつも通り、長尾さんがあっさりと蹴散らした。魔法の威力がまた強くなっている気がするなあ。

 そうやって暫く進んでいくと、大きな湖が見えてきた。湖の真ん中の島に、荘厳な城塞のようなものが見える。真ん中に高い尖塔が立っていて、周りを城壁が取り囲んでいる。神殿、て言葉のイメージとは違って、城か、聖堂とか教会って感じだ。でもあれが勇者神殿なんだろうか。


「ようやく、戻ってきましたね」

「ええ」


 先生とウィルトゥスが感慨深げに島を仰ぎ見た。やっぱりそうなんだな。

 湖岸から勇者神殿までは、長く大きな橋が掛かっている。ここを越えれば勇者神殿だけど、そう簡単にはいかないようだ。橋の向こうに黒い人影が見える。今のところ、襲ってはこないようだけれど。この橋は渡らせないということか。


「誰か、いる……?」


 長尾さんがぽつりと呟いた。


「カエルラの城で、俺たちを襲ってきた奴だ」


 ああ、空気が重い。ピリピリする。嫌な気配だった。思わず足が止まる。


「我々で彼の足を止めます。その隙に、アヤ様は神殿の中へ。何があっても、そうして下さいね。クレメンティア様、インテグラ殿、お願いします。では、行きましょう」


 先生が人影をじっと見据えたまま長尾さんにそう言って、橋の上を進んでいく。ウィルトゥスもそれに続いた。俺も二人に続く。長尾さんは戸惑っていたけれど、二人のただならぬ様子に何も言えなかったようだった。

 半分くらい橋を渡ったところで、すっと黒い影が動いた。凄い速さでこちらへ迫ってくる。


「ストーン・バレット!」

「アイス・ダート!」


 先生と俺がほぼ同時に呪文を放つ。だけどそれらを斬り伏せ、何事もなかったかのように黒い騎士が迫ってくる。

 ウィルトゥスが前に出て、剣を構える。金属がぶつかり合う固い音が響き、火花が散る。


「ここは我々に任せて、アヤ様たちは早く先へ」

「でも、みんなで――」

「邪魔だ」


 黒い騎士、マグヌスがウィルトゥスを払いのけ、長尾さんへと迫る。


「ダイヤ・シールド! アヤ様、お早く。今は封印の方が気になります。魔王の首謀者をお願いします」


 先生がマグヌスの攻撃を防ぎ、その隙に長尾さんを奥へと急がせる。

 みんなでまずマグヌスを倒すべきではないかと言いかけた長尾さんだったけれど、先生の言葉に納得したようで、クレメンティアとインテグラさんを連れて先を急ぐ。このまま長尾さん達を渡らせないと。

 長尾さんの魔法は強いけれど、それでもこの男に勝てる気はしない。多分彼女が魔法を放つ前に、この男は彼女を仕留めるだろう。それが容易に想像できた。だから絶対に、この男に彼女を追わせてはいけない。ここで俺たちが、こいつを倒さなけりゃいけないんだ。


「アイス・ジャベリン!」


 俺は氷の槍を撃ち出す。だがやはり、あっさりとマグヌスに防がれた。それでもいい。目的は足止めだから。


「お前は……あの時殺したはず」


 マグヌスが驚いた顔で俺を見た。先生やウィルトゥスの話からすれば、こいつも俺と同じ自己回復能力を持っているはずだ。それが驚いているということは、こいつにはそこまでの回復能力は無い、つまり刺し貫かれれば死ぬ、ということだろうか。先生たちの話からしても、恐らくそうだろう。とはいえ、都合よく考えすぎないことだな。


「まあいい。それならどこまでもつか、試してやろう」

「させるか! フレイム・セイバー!」


 ウィルトゥスが斬りかかる。一合、二合と剣を合わせるけれど、ウィルトゥスが次第に押されていく。


「無駄だよウィルトゥス。お前では、俺の相手にはならんさ。俺から一本でも取れたことがあったか?」


 マグヌスが強く剣を振り下ろす。受けきれないと見てウィルトゥスが後ろに跳んだ。


「ロック・フォール!」

「アイス・ジャベリン!」


 ウィルトゥスが離れたところを狙って、先生と俺が魔法を放つ。岩石と氷がマグヌスを襲う。さすがに避けきれなかったようで、傷を負っている。だけどそれはすぐに回復していった。厄介だな。でも、俺が言うのもなんだが限度はあるはずだ。そこまで追い込むしかない。

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