第27話 魔王の信奉者と話したり、休んだり
地下牢に向かうと、数十名が牢に入れられていた。
「クレメンティア様⁉ ありがとうございます! 助かりました!」
「いつ自分も魔物に喰われるかと……ありがとうございます」
やせ細って顔色の悪く、薄汚れた、でも元々はきっときらびやかだったのであろう人たちが口々に感謝を述べながら牢から出てきた。
「いえ、わたくしではありませんわ。こちらの勇者、アヤ様が魔物を退治して下さったお陰です」
クレメンティアがそう言って、長尾さんを紹介する。
「おお、ついに勇者様の召喚に成功したのですね!」
「このお美しい少女が勇者様……!」
「ありがとうございます、勇者様」
とまた口々に勇者様を褒め称えた。長尾さんはやっぱりまたちょっと困った顔をしていた。
「いえ、私はそんな大したことはしていませんから。それより皆さん、ずっと閉じ込められて衰弱されているでしょうから、食事と休養をお取りになって下さい」
「お心遣いありがとうございます、勇者様」
牢から出た人々を、騎士たちが上へと連れて行く。
彼らの代わりに、地下牢にはさっきの魔王の信奉者たちが入ることになった。
「神殿騎士、カエルラの街を襲撃した仲間を倒したのはお前か?」
ふいに、牢の向こうから赤い髪の女が尋ねてきた。
「それ、俺だ」
そういえば、こいつ髪の色といいちょっとあの時の男に似ているんだよな。もしかして……。
「そうか。お前が、兄さんを……」
女が俯いた。やっぱり兄妹なのか。だけど、俺を恨んで襲い掛かってくるとかそんな事は無かった。牢の中だし、諦めているのかもしれない。まあ仮に襲ってきたら、俺は振り払うだけだ。あの時と同じく、俺だってやられるわけにはいかないから。
「お前の親が、魔王の信奉者の首領なのか?」
「そうだ。あたしたちはこの世界を無能な勇者の子孫どもから取り返すために、魔王様を復活させようとしているんだ」
確か先生が、あの時の男を魔王の信奉者の首領に少し似ているって言っていた気がするから聞いてみたけれど、やっぱりそうだった。
「だけど……」
そう言ったきり、女は俯いて黙ってしまった。勇者の子孫たちに捕まってしまったことを悔いているのか、魔王の信奉者とて支配側に回れば良い支配者にはならなかったことを嘆いているのか、それとももっと別の何かがあるのか、それは分からなかった。彼女はもう喋らなかった。俯いて、じっと動かない彼女を残して、俺たちは地下牢を後にした。
「ウィルトゥス君、トム君、お疲れ様でした。魔王の信奉者を捕らえたこと、お手柄でしたね」
上に戻ると、先生が笑顔で迎えてくれた。この瞬間がたまらなく嬉しい。ウィルトゥスもそうだろう。隣で誇らしげな顔をしている。だけど先生はといえば、顔色が悪く、どこか疲れて見えた。
「いえ。それより先生、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですけど」
「ええ、大丈夫ですよ。少し魔法を使い過ぎてしまっただけです。休めば回復しますから」
「じゃあ、すぐ休んで――」
「ウェリタス、少し話がありますの。ついてきて頂戴」
先生には少しでも休んでほしかったのに、クレメンティアがそう声をかけてきた。でも先生はもちろん、という感じで頷いた。
「先生!」
「トム君、心配してくれてありがとう。でも、わたしなら大丈夫ですから。……クレメンティア様のこと、悪く思わないで下さいね。彼女だって、大変なんですから」
先生はそっと俺に耳打ちし、俺の肩をトントンと叩いた。クレメンティアも大変か。確かにそうだよな。俺たちと変わらない年だけど、王女様で、沢山の人を率いなきゃいけないわけだし。勇者なんてよく分からない存在を呼び出し、それを導いて危機に立ち向かわせるっていうのも、よくよく考えてみれば大変なことだよな。そんな重責に一人で立ち向かうのは、苦労も大きいだろう。
「ウィルトゥス、トム、あなたたちは城の二階、西側の安全確認を頼みますわ」
「はい」
俺は素直に命令を受ける。俺よりずっと疲れている先生だって働いているんだ。俺が文句を言うわけにはいかない。それに城内部の安全が早く確認できれば休む場所も出来るよな。俺はウィルトゥスと持ち場に向かった。
安全確認、といっても特に何もなく、それは問題なく終わった。その区域にあったきれいな寝室のうち三つが俺たちにあてがわれた。やった、城の中の豪華な個室で休める。
翌日は一日、休息と街の暫定統治の話に当てられた。いくら回復能力があると言っても、限界超えて走った疲れはやっぱりあったようで、翌日は昼近くまで寝ていた。ウィルトゥスも似たような感じだったらしい。
先生は、といえばやっぱり今日もクレメンティアと大体一緒で、会う機会が食事時くらいしか無かった。食事の席で見た先生は、やっぱりまだ少し疲れているようだった。
だけどクレメンティア、先生のことあんまり好きじゃないのかと思っていたけれど、主に街の話に同席させているってことは、頼りにはしているのかな。カエルラの街でも、意見は聞いていたし。まあ若い有力貴族の集まりであろうお付きの騎士たちも、この街の生き残った貴族たちも、大半は何というか、あんまり真面目そうじゃないっていうか、実務向きじゃなさそうっていうか、こういう危機の時には頼りにならなそうではあったからなあ。
先生は頼りになる人だ。自分の損得抜きに、正しいと思ったことを言ってくれる。そしてだからと言って理想だけってわけじゃなくて、結構現実的にものを見てもいる。クレメンティアもそんなところを頼もしく思っているのだとしたら、なんだかちょっと嬉しい。一緒にいられないのは少し寂しいけれど仕方ない。俺は俺で出来ることをしなくちゃ。さしあたり、今は休んでおくことだ。
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