第25話 歓迎されたり、また襲われたり
「勇者様! 魔物を倒して頂きありがとうございます! 魔物どもが見張っていたために、勇者様にご協力することが出来ず申し訳ありません」
街の入り口で、さっきの身なりの良い男が長尾さんにぺこぺこと頭を下げていた。
「良いんですよ。こうして門を開けて下さったんですから」
長尾さんがちょっと困惑した様子で答えた。そんなに頭を下げなくてもいいのに、って顔だ。
「勇者様!」
「魔物を倒して頂き、ありがとうございます!」
「これでやっと、あいつらの支配から解放されます!」
街の人たちが長尾さんを取り囲み、口々に叫んでいた。確かに毎度毎度、こんな風にされるのも面倒だよなあ、とその様子を見ながら思った。こういうので気を良くする人もいるんだろうけど、彼女も俺もどうやらそういうタイプではないらしい。
だけどどうも、街の人は魔王の信奉者を良く思っていないようだな。結局のところ彼らも、いい支配者じゃなかったわけだ。それは少し安心した。まあ、襲って来ないにしろ魔物に見張られてたら気が気じゃないよな。
「皆、勇者様を歓迎したい気持ちは分かるがこれではご案内できない。今はこの街の状況をお伝えするのが先だ。それに、また奴らが魔物を――」
「皆さん伏せて! ダイヤ・シールド!」
男が言い終わるより先に魔物が差し向けられてきたらしい。魔法の盾が、降り注ぐ炎を防いだ。さっきのデスフェザーくらいの大きさの赤い鳥がこちらを睨みつけていた。
「また魔物⁉ アイス・ダート!」
長尾さんが魔物に向けて広範囲に氷の矢を放つ。魔物は躱しきれずに氷の矢に貫かれ、落下する。
「まだ来ます! 街の皆さんは、早く建物の中へ!」
先生が住民の避難を急がせる。街の中心の方から来たっぽいな。
「違うんです! 我々はそんなつもりじゃなかった! 魔王の信奉者たちが勝手に内側から……!」
男が長尾さんに縋りつき捲し立てる。魔王の信奉者に言われて俺たちをおびき寄せたわけじゃない、と言いたいらしい。住民は罠にかける気なんてなくて、結果的にそうなったってだけってことか。
「分かっております。今は落ち着いて、街の皆さんを避難させて下さい。あなた、街の顔役でしょう? できますね? 我々が守りますから」
憔悴しきった様子の男に何と言っていいか分からない長尾さんに代わって、先生が落ち着いた声で語りかけた。
「は……はい。みんな、ひとまず建物の中へ」
それで男も少し落ち着きを取り戻したようだった。近場の大きな建物の方へと住民を誘導していく。そこへまた一体、赤い大きな鳥がやってくる。
「クレメンティア様、防御呪文を!」
「わ……分かりましたわ。アイス・シールド!」
赤い大きな鳥が吐いた炎の吐息は、氷の盾に阻まれ消えていく。住民たちはその間に避難できたようだ。
だけどそうこうしている間にも、また一体、中心の方から飛んでくるのが見えた。
あれ? そういえばさっき城壁の上にいた女、この辺りに落ちていてもよさそうなものだけど。住民たちも、墜死体を見たようなことは言っていなかった。落ちたのは確かに城壁の外側じゃなくて、内側だった。もしかして落ちたんじゃなく、そう見せかけて降りたのか? 普通に着地して、増援を呼びに行ったってことだろうか。魔法のある世界だし、そのくらいのことは出来るかもしれない。
「先生、さっき城壁の上にいた女がいないんです。そいつが魔物を呼び出しているのかも。多分街の中心の方です。そいつを倒さないと!」
「ではトム君はウィルトゥス君と二人でその人を探して下さい。アヤ様は、現れた魔物の迎撃を。街の防御はわたしとクレメンティア様、そして騎士団の皆さんで行います」
先生がてきぱきと指示を出す。
「分かりました!」
俺とウィルトゥスは内側の城壁に向かって駆け出した。
城門は当然ながら閉まっていた。門番はいないが、鍵がかかっているのか開かない。
「トム、下がれ。フレイム・セイバー!」
スパン、と炎の剣で門を斬りつける。あっという間に、門が灰と化した。凄いな。
「何を呆けている? 行くぞ」
「あ、はい」
魔法の威力についぽかんとしてしまった俺の肩をウィルトゥスが叩いた。俺たちは、中心街へと向かう。大きくて瀟洒な建物が並んでいるけれど、街の様子は何だか汚いというか荒んでいるというかなんというか……前のカエルラの街のような手入れが行き届いている感じが無かった。
「魔物を召喚しているんだとしたら……きっとちょっと広い場所だ。城まで戻っているかもしれないけど、結構対応が早かったし……どこか街の中なのかも」
「この先の教会の前に広場があるはずだ。まずはそっちへ行ってみるか?」
「え……? ウィルトゥス様、この街に来たことがあるんですか?」
「ああ」
「では、案内お願いします!」
ウィルトゥスを先頭に、俺たちは大通りを進み、少し行ったところを右に折れる。
今や崩れ落ちた、教会だったのであろう建物が見える。その前の広場に、城壁の上にいた赤い髪の女がいた。女の足元に、魔法陣らしきものが描かれている。なんだか魔法陣が赤く光っている。もう魔物を呼びだす直前ということだろうか。止めなくちゃ。とにかく、魔物の召喚から気を逸らす事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます