第24話 地道に魔物を倒したり、街に入ったり
「魔法は躱されてしまうみたいですね」
「ええ」
「じゃあ躱せないくらい、沢山撃てば良かったんだ」
長尾さんが独り言のように呟くと、デスフェザーの群れを睨みつける。
「ウィンド・カッター!」
風の刃が広範囲に渡って撃ち出された。そのすさまじさに後ろの騎士達からおお、と驚きの声が上がる。デスフェザーたちは慌てて避けるけれど、逃れられなかった。だけど、広範囲に撃った分威力が落ちたのか、五体とも傷を負ったものの、まだ戦えそうだった。纏めて攻撃されることを恐れてか、デスフェザーたちはお互いに距離を取った。
「ちょっと広くし過ぎたみたい。威力と範囲の調整が上手くできないな……」
長尾さんが悔しそうにつぶやく。それにしても上手く行かなかったとはいえ、あんな凄い魔法を撃てるなんて。さすが勇者だ。
「でも今の長尾さんの魔法で纏めて攻撃されることに怯えているっぽいから、一斉に来ることはなさそうかな。一体ずつおびき寄せられればいいんだけど」
どうしたらいいだろう? って、思いつくのは一つだけだ。そして結構いけそうな気がする。
「ねえ先生、先生の拘束魔法で、あいつを止めることはできませんか?」
「あんな上空にいるのでは無理ですね。地上近くでタイミングが合えば不可能ではありませんが……」
出来なくはないが、難しい。そんな感じだな。でもやってもらうしかない。
「じゃあ、私があいつをおびき寄せますから、私が攻撃された瞬間に拘束して下さい。ウィルトゥス様は、そこを攻撃して下さい」
先生とウィルトゥスが眉根を寄せ、口々に危険だと言った。まあ、そうなるよな。でも、今のところそれが一番上手く行きそうな気がするんだ。ここは譲れない。
「そんな顔しないで下さい。私なら大丈夫ですから。とにかくそれで、上手く行くかやってみましょうよ」
「仕方ありませんね。分かりました」
「分かった」
先生とウィルトゥスが頷いてくれた。
「アイス・ダート!」
俺は一人、みんなから離れて一番近くにいるデスフェザーに近づき、呪文を放つ。想定通り、デスフェザーはひょいと俺の氷の矢を躱す。そして急降下して俺に襲い掛かってきた。
「アース・バインド!」
俺に爪が突き刺さろうかという直前で、デスフェザーがべたんと地面に堕ちた。
「フレイム・セイバー!」
地面に縛り付けられたデスフェザーに、ウィルトゥスが炎の剣を振り下ろす。デスフェザーは悲鳴を上げることすらなく絶命した。
「やった!」
「トム君! もう一体来ます! アース・バインド!」
振り向くともう一体、デスフェザーが迫ってきていた。だがそいつも先生の拘束魔法で、しっかりと地面に縛り付けられた。さくりとそいつを、ウィルトゥスが突き刺す。
「これで二体、ですが……」
上空を見ると、デスフェザーたちはすっかり警戒してしまったのか、もう俺を襲って来なくなっていた。俺が挑発に魔法を撃っても、避けるばかりで襲ってはこない。結構、賢いんだな。
「役立たずが! 死にたくなければ、勇者たちを殺せ! ウィンド・カッター!」
突然城壁の上からそんな苛立った女の声がして、デスフェザーに風の刃が襲い掛かった。それはデスフェザーを倒すことはなかったけれど、彼らにもう一度俺たちと戦う気を起こさせるには十分だったようだ。
三体のデスフェザーが一斉に俺たちに狙いをつけ、急降下してくる。
「三体同時には拘束は無理です!」
「とりあえず拘束は諦めて回避を――」
「ウィンド・カッター!」
ヒュン、と無数の風の刃が横から、デスフェザーたちを襲った。切り刻まれた肉片が、バラバラと俺たちの前に落ちる。
「ありがとう、長尾さん。助かったよ」
「ううん。今度は威力と範囲の調整が上手くいってよかった」
それにしても凄いな。苦労して一匹ずつ倒していたのが嘘のようだ。余計なことはせず、長尾さんにとにかく高威力の魔法を浴びせて貰えばよかったのかなあ……。
と、そんなこと考えている場合じゃない。そうだ、まだもう一人敵が残っている。
俺は城壁を見上げる。さっきデスフェザーに向けて魔法を撃った女が、城壁の上を走り去ろうとしているところだった。
「逃がすか! アイス・ジャベリン!」
早く、鋭く。そう念じて、俺は魔法を放つ。長尾さんに頼むほうが威力の面では確実だろうが、それは憚られた。
ヒュン、と一直線に、氷の槍が女に向かって飛ぶ。女が城壁から落ちるのが見えた。俺の魔法、当たった感じはなかった。躱そうとして、足を踏み外した? それとも魔物たちがやられてしまったから、観念して飛び降りた? 分からないけど、あの高さから落ちたら助からないだろう。
「ひとまず、この辺りの敵は倒せましたわね。もう一度城門を開けるように呼び掛けてみます。駄目なら、門を破りましょう」
クレメンティアはそう言って、また城門の方へと歩いていった。もう一度門の中に呼びかけてみるが、反応はない。
それではこちらから門を開けようか、と集まったところで、城門がゆっくりと開いた。
「勇者様! 魔物を倒して頂きありがとうございます! さあ、中へ!」
開き始めた門の向こうから、そんな声がした。身なりの良い五十くらいの男性が手招きしている。
「罠じゃ……ないよな……?」
「きっと違うよ。それにもし罠で、魔物が襲ってきたら倒せばいいだけだよ」
俺の漏らした疑いの声に、長尾さんが力強く答え、開いた門の中へと進んでいく。何とも頼もしいなあ。そりゃあれだけ魔法が使えればそうか。
俺も後を追った。
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