第23話 投降を呼びかけたり、魔物に襲われたり

 少し歩いたところで、灰色の城壁が見えてきた。


「あれがロセウスですか?」

「ええ、そうです」


 先生が頷いた。ウィルトゥスが厳しい顔つきで城壁を見ている。俺もそちらに目をやる。見張りらしき人影と、黒い大きな鳥のような生物が何体か見えた。見張りよりも一回り大きい。


「鳥型の魔物……?」

「ああ。デスフェザーだな。奴ら、猛スピードで空を飛ぶから厄介なんだ」


 中々攻撃を当てられないってことかな。


「それにしても、普通に街に人と魔物がいるんですね。魔物を召喚したりできるみたいですけど、操ることも出来るんですか?」

「『操る』なんて事は出来ません。でもある程度は制御可能です。自分たちを襲わず協力すれば、もっと楽に沢山の人間を食べられるようにしてやる、といったところでしょうか」


 組んだ方が得だと思わせることができれば、一応協力関係は出来るわけか。とはいえ、誰かしら人を喰わせなければいけないわけだから、世界を守る側に魔物を活用することはできないんだな。まあ、魔王の信奉者たちの用途としては、自分の気に入らない奴らを襲わせられればいいからそれでいいんだろうけど。


「そうやって魔物に貴族たちを襲わせて、実権を握ったのだろうな。一般の住民は極力襲わないようにして、彼らも従わせているのだろう」


 襲うのは貴族だけだ、とすれば一般の人たちも協力してくれる可能性はあるのか。今の支配者がろくでもない奴なら余計に。


「私たちは街を取り戻しに来たわけですけど、一般の街の人からしたらそれは望ましいことなのですかね?」


 もちろん魔王が復活した場合に、じゃあ支配者層である勇者の子孫以外なら保護されるのかって疑問はある。だけど今現在脅かされているのは主に支配者層だ。勇者を召喚したのだって、聖王国の王女であるクレメンティアだ。勇者って体制側なんだ。一緒にいる俺だってそうだ。この世界を救うのか、支配者層を救うだけなのか、ちょっと分からない。


「今はどうだか分かりませんが、魔王が復活すれば彼らだって無事ではないはずです。魔王というのはそんなに都合の良い存在ではありませんからね」

「それに支配者が勇者の子孫から魔王の信奉者に変わって良くなったとも思えない。だがもしそうであるならこの街を取り返すのは難しくなるだろうな」


 先生とウィルトゥスにも確証は持てないことであるようだ。とは言え魔王の信奉者に好き勝手させて、魔王を復活させるわけにはいかない、というのは確かなことのようだった。


「とにかくロセウスは取り戻さなければなりません。どうやって、というのが問題ですが。それはアヤ様とクレメンティア様に伺ってみませんと」

「そうですね」


 俺たちは長尾さんとクレメンティアのところへ指示を仰ぎに向かう。


「まずはわたくしがロセウスの街に呼びかけてみますわ。投降してくるか、住民たちが協力してくれれば良し、駄目なら強行突破するしかありませんわね。まあ、あんな風に魔物が見張りに立っているようでは、期待できませんけれど」

「じゃあ、みんなで行きましょう。ウェリタスさんたちも、一緒にお願いできますか?」

「もちろんです、アヤ様」


 クレメンティアを守るようにして門に近づく。攻撃してくるかと思ったけれど、向こうも様子見のようだった。


「わたくしはフォルティトゥード聖王国第一王女、クレメンティアです。勇者様と共に魔王の信奉者に奪われたロセウスの街を取り戻しに参りました。大人しくロセウスを明け渡しなさい。ロセウスの住民たちよ! 今こそ魔王の信奉者たちの支配を打ち破りましょう!」


 クレメンティアが良く通る声で呼びかけた。当然の如く、街側が投降して門を開けるとかそんな事は起こらなかった。見張りらしき赤い髪の女がさっと手を振る。城壁の上にいたデスフェザーたちがバサバサと凄い音を立てて羽ばたく。


「ウィンド・カッター!」


 長尾さんが呪文を唱える。空気の刃が一番近くにいたデスフェザーを襲う。だけどデスフェザーは、それをひょいと飛んで躱した。


「躱した⁉」


 デスフェザーは驚く長尾さんに向け、急降下してくる。


「長尾さん、危ない!」


 俺は彼女を突き飛ばす。デスフェザーの爪が、俺の腕を掠めていった。


「このっ!」


 俺はデスフェザーに向けて剣を振るうけど、間に合わずに上空に逃げられた。


「ストーン・バレット! ……やはり素早いですね」

「アイス・ダート! ……くっ、外しましたわ」


 先生とクレメンティアが追撃の魔法を放つけど、やっぱり躱されてしまったようだ。ウィルトゥスの言っていた通り、厄介な相手だな。


「稲村君、ごめん。大丈夫?」

「大丈夫。ほら、もう治ってるし」

「えっ⁉ どうして⁉」


 俺が腕を見せると、長尾さんはびっくりした様子だった。でも、今はそんな事を説明している場合じゃない。あいつらを倒す方法を考えないと。

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