第21話 プレゼントを貰ったり、仲直りしたり

 暫くして、先生はその手に青い魔石の嵌った立派な剣を手に戻ってきた。


「モデストゥスの溜め込んでいた宝物の一つです。役に立ちそうなので……ええと……譲って頂きました。水の魔力を溜めることができて、それを放つことで魔法が撃てます。魔力は勇者様に補充して頂けば良いかと」


 今ちょっと言い淀んだの何だ? でもそこは多分、気にしてはいけない。俺が気にすべきはそこじゃない。


「魔力を補充して貰えば、私でも魔法が撃てるんですか?」

「ええ。わたしの杖とかウィルトゥス君の剣もそうなんですけど、普段使わないときに少しずつ魔石に魔力を貯めておいて、戦闘の時はそれを補助に使っています。そうでないとすぐに魔力が尽きてしまいますし、魔力が尽きると最悪死にますからね。勇者様みたいに魔力が高ければ魔石無しで良いんですけど。君が魔法を使えないのは、持っている魔力を全部回復に回してしまうからです。なので魔力さえどこかから補充できれば、君でも魔法を撃つことは可能です」

「でもそれなら、魔石を使えばもっとみんな魔法が使えて、戦えるようになるんじゃないですか?」


 一般の人に普及させれば、街の防衛とかにも役立つんじゃないのかな。あ、でもそんな武器を持たせたら反乱とかの危険性も高まるからそう簡単には渡せないのか。


「そうもいかないんです。魔石自体貴重ですし、支配者層の安全上、というのももちろんあります。でも一番の問題は魔石の魔力をどんな魔法として打ち出すかというのは持ち主次第だという点です。普通の人は、たとえ魔力を供給されてもそこができないのですね。魔法は勇者の子孫のものと信じていますから、そのイメージができないのです」


 魔法なんて使えないって思っているから、使えない? そういうことか?


「その点、君は大丈夫だと思いますよ。魔法、使ってみたいでしょう?」

「それは、もちろん」

「魔法はイメージが大切です。きっと君はそれを持ってますから。期待してますよ」

「ありがとうございます」


 早速明日、出発前に長尾さんに頼もう。俺にも魔法が使える! 単純に魔法が使えるのはテンション上がるっていうのもあるけれど、魔法が使えれば少しは戦力になれるだろう。これで役に立てればいいのだけど。


 先生は一緒に戦ってくれと言ってくれたけれど、戻ってきたウィルトゥスは何も言わなかった。夕食の席でも微妙な雰囲気だった。出て行けとこそ言われないけれど、歓迎はされていない。そんな感じだった。悲しいけれど、俺にはこれ以上何も言えなかった。


 もう元気になった人もいて、宿泊施設のベッドも空いたから、今日はそっちで寝ることになった。気まずいから別室なのは有難い。とはいえいずれ何とかしなくちゃな。とにかく、地道に貢献していくしかないか。


 翌朝は早々に目が覚めてしまった。ウィルトゥスを起こしに行くにはまだ早いな。彼のところに行くのが気まずいというのももちろんあるけど、単純に時間が早い。とはいえ、二度寝する気にもなれなかった。

 一応日課になっているし、剣の素振りでもしよう。動いていた方が、気が紛れるよな。俺は先生に貰った剣を手に、中庭に出る。

 しばらく振っていたら、何だか殺気のようなものを感じた。咄嗟に剣で防ごうとしたけれど、受けきれずに地面に転がされる。起き上がろうとする俺の喉元に、剣の切っ先が突きつけられた。冷たく澄んだ青い瞳が俺を見下ろしている。怖い。剣は練習用のだし、殺す気はないらしいけれど……。弱い奴は出て行けと、そういうことか?


「反応は悪くない。だが力不足だな。もっと鍛えることだ。もっとも、鍛えねばならんのは私も同じだが」

「え?」


 掛けられた言葉に、俺は面食らった。どういうことだ?


「守ってくれなくていいと言ったのはお前だろう? ならば自分で自分の身を守れるようになることだ。今のままでは、到底無理だな。だから鍛えてやる」


 ウィルトゥスはパシパシと剣の腹を自分の手のひらに打ち付けながら、俺を睨みつけ、でもすこし口元を緩めて言った。


「え? あ、はい……そうですね。お願いします!」


 練習用の剣を受け取り、俺はウィルトゥスに打ちかかる。まあ全然相手にならないんだけど、それでも何だか嬉しかった。


「二人とも、元気ですね。良かった良かった。でももうそろそろ朝食の時間ですし、今日からは勇者様にご同行するのですから、ほどほどにね」

「はい」


 どこか嬉しそうに声を掛けてきた先生に、俺たちは笑顔で返事をする。


「あ、そうだ。勇者様のことなんですけど、一つお願いが」


 ふと長尾さんのことを思い出し、一つ二人にお願いごとをする。二人はちょっと戸惑っていたけれど、最終的には了承してくれた。

 二人と一緒に、勇者の長尾さんと旅ができる。もちろん戦いに行くのだから、楽しい旅とはいえないのだけれど。

 それでもいい旅にはできそうだ。

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