第15話 呪文を唱えたり、勇者じゃないと言われたり

「どなたか、この城の訓練場に案内して頂けませんか?」

「では、私が。皆様、ついて来て下さい」


 近くにいた騎士の案内で、訓練場とやらに向かう。連れて行かれたのは、屋外の広い運動場のような場所だった。端の方に的が置いてある。俺はその的の前に連れていかれた。これはアレか。魔法とかぶつけるやつか。


「では意識を集中して。石礫を撃ち出す事を想像して唱えて下さい。『大地よ礫となりて我が敵を穿て、ストーン・バレット』はいどうぞ! 頑張って!」

「大地よ礫となりて我が敵を穿て、ストーン・バレット!」


 なんだかちょっとテンションの高い先生に言われた通りに唱える。しかし、なにもおこらなかった!


「地属性はダメですか。次行きましょう。ウィルトゥス君、火属性の呪文、教えてあげて下さい!」

「え? はい。火の玉を撃ち出すイメージだ。『炎よ集いて我が敵を焼け、ファイア・ボール』」

「炎よ集いて我が敵を焼け、ファイア・ボール!」


 ウィルトゥスに言われた通りに唱えるけれど、やっぱり何も起こらなかった。


「じゃあ次は水行ってみましょう。クレメンティア様、お願いします!」


 なんか先生、さっきからやたらノリノリじゃないか?


「え? ええ。氷の矢を撃ち出すイメージですわ。『氷よ矢となり我が敵を貫け、アイス・ダート』」

「氷よ矢となり我が敵を貫け、アイス・ダート!」


 続いてクレメンティアの教える通りに唱えたけれど、それでも何も起こらなかった。そういやこれ、俺がモデストゥスに喰らったやつだな。


「最後は風ですけど……」


 先生がちょっと困ったように辺りを見回す。


「あ、あの私、風魔法できますよ」


 長尾さんがおずおずと挙手した。


「ああ、それは良かった。では勇者様、お願い致します」

「はい。えっと、風の刃を出すイメージだよ。『風よ刃となりて我が敵を裂け、ウィンド・カッター』稲村君、頑張って」

「風よ刃となりて我が敵を裂け、ウィンド・カッター!」


 まあ、薄々分かっていたことだけど何も起こらなかった。ああ……これだと俺、なんか気合入れて変な呪文を唱えてるヤバイ奴なんだが。


「ええと……初回で言われた通り呪文を唱えるだけで、魔法って使えるものなのでしょうか?」


 俺はニコニコしている先生を恨みの籠った目で見つめる。


「適性があればなんらかの反応が現れますね。威力のある魔法を的に当てられる、なんてことはまずありませんが」

「長尾さん、どうだった? 風魔法、使えるんだよね?」


 俺は縋るような目で長尾さんを見る。


「私のときはそれで、魔法が使えたよ」


 長尾さんがちょっと申し訳なさそうに目を伏せて答えた。


「ちなみに勇者様は四属性全ての魔法に適性がありますわ。普通は一つの属性だけですのに。勿論最初から威力も抜群でしたわ。さすが勇者様ですわ!」


 何故だかクレメンティアが勝ち誇ったように胸を張った。


「そう……ですか……」


 俺はがっくりと項垂れる。これが勇者とそうでない者の違いか。


「と、いうわけで! このように彼は魔法が使えませんね!」


 さっきからなんで先生そんなテンション高いの? そんなに俺が魔法使えないのが嬉しいの?


「勇者ではないということですわね。分かりましたわ」


 クレメンティアもようやく納得したようだった。

 ああそうか。先生がテンション高いのは、俺が勇者じゃないって証明して、勇者だと知りながら隠してたって疑いを晴らせたからか。



「そうだ、ねえ稲村君、一緒にお昼ご飯食べていかない? もちろん、お二人もご一緒に」


 俺の楽しい勇者テストが終わった後、長尾さんが俺たちに声を掛けてきた。俺たち三人は顔を見合わせる。


「よろしいのですか?」


 先生が少し戸惑った様子で長尾さんに聞き返す。


「ええ、もちろんです。ええと……」

「すみません。申し遅れました。神殿騎士のウェリタスです」

「同じく、ウィルトゥスです」


 二人が名乗ると、長尾さんは「ウェ? ウィ?」と混乱した様子で呟いていた。ややこしいよな。


「いいよね、クレメンティアさん?」

「分かりましたわ、勇者様。彼らの分も席を用意させましょう」


 クレメンティアが頷いた。何だか大分イヤそうだけど、反対はしないのか。勇者様の言う事だからなんだろうな。

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