第14話 報告したり、勇者と疑われたり

 翌日、ウィルトゥスも普通に歩けるくらいには元気を取り戻したので、俺たちは三人で、クレメンティアと長尾さんのところへ報告に行くことになった。

 まだ騒然としている貴族街を抜け、城に向かう。城の門が見えたところで、向こうから走ってきた騎士が俺たちに気づいて急停止した。ちょっと驚いたような、嬉しそうな様子だった。


「君は、昨日の! それにウェリタス殿とウィルトゥス殿も! ああ、丁度良かった。クレメンティア様があなた方をお探しだったのですよ!」


 走ってきたせいなのか、俺たちを見つけてこれ以上走らずに済んだ喜びなのか、騎士はちょっと興奮した様子で言った。


「クレメンティア様が?」

「ええ。こちらへどうぞ」


 騎士の案内で、俺たちが連れて行かれたのはあの執務室だった。確かに昨日報告に来いとは言っていたけれど、探していたってことはそれとはちょっと違う用事のようだ。一体なんだろう?

 騎士が扉をノックし、俺たちを連れてきたことを告げる。中からツンとすました声が、入りなさいと告げた。

 扉の中には、クレメンティアと長尾さん、そしてモデストゥスがいた。

 何でこいつがここに? 俺もびっくりしたけれど、向こうはもっと驚いていた、というか狼狽えていた。だがモデストゥスはすぐにそれを隠した。


「報告が遅くなりまして申し訳ありません、クレメンティア様。わたくし共も――」

「言い訳はいいわ、ウェリタス。聞きたいことがあるの」

「なんでしょうか?」

「彼は、領主様が黒い騎士の襲撃で亡くなったと言っていますの。領主様のご遺体も見つかりましたのよ。でも昨日、そこのあなたの従者が二人を黒い騎士の襲撃から逃がしたと言っていたわ。どちらが正しいのか、確認したいの」


 あの二人は確かに秘密の脱出路から逃げていた。その後黒い騎士に見つかったのなら、二人とも殺されているはずだ。ということは、あの後モデストゥスが領主を殺したけど、それを隠してここに来たってわけか。きっと、領主の後釜に収まるつもりなんだ。

 だけどクレメンティア、ちゃんと俺の証言を取り上げてくれたんだな。意外と、と言っちゃ失礼だけど、偉そうなだけじゃなくてちゃんとした奴なのかもしれない。


「ええ。領主様とモデストゥス殿は、謁見の間にある隠し通路から脱出されました」

「そう。ところでウェリタス、例の調査の結果はどうでしたの?」

「モデストゥス殿による横領の証拠が発見されました。そちらでしたら、証拠はご提示できますよ。この執務室の隠し部屋にご案内できます」


 先生が淡々と答えた。モデストゥスの狼狽の色がみるみる濃くなっていく。俺たちが生きているって思わなかったんだろうな。自分の不正を知る者も領主もいなくなれば新たにこの街を手に入れて好き放題できる、とでも思っていたんだろう。浅はかな奴。


「そんな……陰謀だ! クレメンティア様、そいつらの言うことを信じるのですか⁉」

「ええ、信じますわ。少なくともあなたの不正の証拠はあるということですもの。この部屋にあるということですから、今から皆で見てみますかしら?」

「くっ……」


 モデストゥスが唇を噛んだ。ようやく観念したらしかった。


「連れて行きなさい」


 クレメンティアが冷たく言った。部屋にいた警護の騎士たちがモデストゥスを連れて行った。


「クレメンティア様におそれながら申し上げます。街の者は復興をよく行っております。当面の街のことは彼ら自身に任せるのが宜しいかと。街のことを知らぬ我々があまり口を出すのはかえって混乱を招きます。我々は街の防衛に当たるシンケルス殿たちと協力して、街の防衛と治安維持を中心に行っていくのが良いかと存じます」


 先生がこの街の今後について進言する。領主も大臣も、というか城の人間がごっそりいなくなったんだもんな。とはいえ、街の方はそこそこ上手く回ってる感じだ。先生の言う通り、外から来た奴がいきなりごちゃごちゃ言うと混乱するだろう。


「分かりましたわ」


 クレメンティアはあっさりと頷いた。何だか意外だ。もうちょっと色々揉めるかと思っていた。でも、その辺の話は俺とはあんまり関係ないしな。纏まったんならそれでいい。


「ところでウェリタス! 一体どういうことですの? そこのあなたの『従者』、勇者様と同じ世界から来たそうですわね?」


 ここからが本題、とばかりにクレメンティアが先生にキッと鋭い目を向ける。


「ええ? そうなんですか?」


 でも先生はその視線を全然気にした様子は無かった。目をぱちくりしながら、俺の方を振り返る。これは素なのか演技なのか。俺には分からない。


「ええ、実は」


 俺は頷いた。隠したってしょうがないというか、長尾さんもいるし隠しきれないから、ここは大人しく肯定しておく。


「知らなかったというの?」


 クレメンティアの視線がさらに厳しくなった。でも、やっぱり先生はいつも通りだった。穏やかな目でクレメンティアを見て、こくりと頷いた。


「ええ。その子とは偶然出会ったのです。どこか異国から来たようで、魔王の信奉者と間違えられて困っていたところを助けました。勇者教団の教義に興味があるというので、従者として教育することにしたのです」

「その男の発言と一致しますわね……」


 クレメンティアが眉根を寄せて唸る。まあ、ホントにそれだけだからなあ。俺ももしかしたら先生に召喚されたんじゃないかと思ったけど、『召喚者の願いを叶えよ』なんだから、召喚したなら願いを言うはずだよな。俺は何も願われていない。


「その男も勇者の力を持っていて、あなたが隠しているのではなくて?」


 でも、クレメンティアはなおも疑っていた。先生はちょっと眉根を寄せた。


「そのような力を持っているとは思えませんが……試してみましょうか?」


 試す? 試すってどういうことだろう?

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