第11話 嫌がられたり、事情聴取を受けたり

「……あなた、助けてくれた人たちとここに調査に来たって言いましたわね? それ、神殿騎士のウェリタスとウィルトゥスかしら?」

「そうです! 二人のこと、ご存じなのですか? 二人は、今どこに⁉」


 俺は思わずクレメンティアに詰め寄る。クレメンティアが嫌そうな顔で、さっと俺から距離を取った。

 まあ俺も二人の事が気になってつい急に距離を詰めてしまったのは良くなかったと思うけれど、そんなに露骨に嫌そうな顔をされるとなあ。


「ウェリタス……こいつの事、知っているのかしら? あなた、二人とはどういう関係?」


 クレメンティアはといえば、俺の質問には答えずにイライラした様子で尋ね返してきた。

 俺が質問してたんだけどな、と思うけど、そんな事を言っても仕方なさそうだ。


「私は二人の従者です」

「従者……?」


 クレメンティアは眉根を寄せた。


「私が魔王の信奉者だと疑いを掛けられた時に、自分の従者だと庇ってくれたんです。それでそのまま、従者として連れて行って頂くことになりました」


 俺は補足する。まあ、あんまり従者として役に立ってはいないんだけど、ポジションとしてはそうだ。クレメンティアは気に入らないような顔をしていたけれど、それ以上は何も聞いて来なかった。


「それであの……クレメンティア様はお二人をご存じなのですか? 二人は今、どうしていますか?」

「わたくしが聞きたいくらいですわ。あの二人、生きているのなら、すぐにこの惨状について報告しに来るべきですわ!」


 忌々し気にクレメンティアが吐き捨てた。


「ここに来るまでには、見なかったということでしょうか?」

「そうですわね」


 ということは、少なくとも城内の目立った場所に遺体は無かった、ってことか。だとしたら、いい報せだ。


「じゃあ、二人は逃げられたのかな……きっとそうだ……俺、探しに行かなきゃ」


 城内から逃れて、あの教会に戻っているかもしれない。だとしたら、早く行こう。


「稲村君⁉ 待ってよ。ケガしてるんだし、危ないよ」

「大丈夫。歩けるし、痛みもそこまでじゃないし。二人のこと、気になるから……。長尾さんも色々、ここでしなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」


 勇者の彼女がここへ来たのは、魔物に襲われていたこの街を救うためだったんだろう。街の司祭が勇者様が来るまで持ちこたえればって言っていたし。

 まあ魔物の方は撃退出来たわけだけど、この襲撃事件が起きたわけで、彼女は多分、その後始末をしなきゃいけないはずだ。俺に構っている暇なんて、本当は無いに違いない。だからクレメンティアだって、俺に苛立っているんだろう。


「そうだけど……」

「そうですわ。わたくしたち、まずは今の状況を知る必要がありますの。あなた、知っていることを話して下さる? 黒い騎士に襲われた、とか言っていましたわね?」


 クレメンティアが有無を言わさぬ様子で尋ねてくる。おっと、その後始末のために必要な情報を聴取できそうなのは現状俺だけなのか。

 仕方ない、手短に話して解放してもらおう。


「はい。黒い騎士……確かマグヌスって呼ばれていましたね。それが領主様とモデストゥス大臣を襲いに来て、神殿騎士の二人が応戦しました。領主様方を逃がすことができましたし、こちらも劣勢でしたので撤退した、という次第です。私はその最中に倒れてしまったので、それ以上は分からないのですけれど」

「マグヌス……? 神殿騎士団の裏切り者がどうしてここに。それにしても情けないものですわね、あの二人。身内の不始末くらい、自分たちの手で片づけてほしいものですわ!」


 裏切り者、か。お互いに知っているようだったし、モデストゥスが身内の不始末がどうとか言っていたから、そんな事じゃないかと思っていたんだけどやっぱりそうなのか。

 だけど片付けろ、とは無茶を言う。あの黒い騎士は恐ろしく強かった。領主たちや俺がいたっていうのがあるにせよ、二人がかりでも歯が立たない感じだったものな。


「それで、こんなケガを……」


 長尾さんがまた心配そうに俺を見た。


「でもまあ、もう大丈夫だから。……もうよろしいですか、クレメンティア様。私が知っていることは、このくらいですので」


 俺は帰りたいオーラ全開でクレメンティアに尋ねる。長尾さんに会えたのは嬉しいけど、今は二人のことの方が心配なんだ。


「ええ、行ってよくてよ。もしウェリタス達に会ったら、わたくしと勇者様に報告に来るように伝えなさい。その時は、あなたも来なさい」

「はい。じゃあ長尾さん、俺行くよ。二人に会えたら、また来るから。その時に」

「うん。じゃあ、またね」


 俺は覚束ない足取りで謁見の間を後にした。城内では、長尾さんたちが連れてきたらしい騎士達が遺体の片づけに追われているようだった。城内のあちこちに血が飛び散っている。この惨状……あの黒い騎士は、城の兵士を片っ端から斬っていったってことだろうか。それでその騒ぎが謁見の間まで届かなかったわけだから……それこそ目撃者を残さず瞬殺してったってことなのか? だとしたら恐ろしい話だ。

 本当に、二人が無事だと良いのだけど。



 いまや騒然としている貴族たちの街も抜けて、俺はようやく壁の外の街に戻って来た。とにかく教会に行ってみよう。二人がいるとしたら、きっとそこだ。

 俺は教会の尖塔を目指して急ぐけれど、ハッキリ見えているはずの尖塔は、なかなか近くならない。思ったようには動けていないな。それでも、急がなくちゃ。

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