第7話 装備を整えたり、街の様子を聞いたり
「神殿騎士殿、此度の魔物討伐にご協力頂きありがとうございます。重ねてお礼を申し上げます」
「いえいえ、これもわたしたちの努めですから」
深々と頭を下げるシンケルス隊長に、先生が首を振る。それが当然の義務であると彼は心から思っているようだった。
「少しお話ししたいことがありますので、私の部屋へお越し頂けませんかな?」
「ええ、分かりました」
俺たちは、門の近くにある詰所の彼の執務室に向かう。
「まず……あの魔王の信奉者らしき男が持っていたナイフ、良かったら神殿騎士殿にお持ち頂けませんか?」
隊長が紫の魔石が嵌ったナイフを机の上に置いた。
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろん。何かのお役に立てて頂ければ」
「ありがとうございます。じゃあ……嫌かもしれませんが、これはトム君が持って下さい」
先生が俺にナイフを握らせた。毒の魔法が付与されているって言っていたっけ。だとしたら、持つのは攻撃力の低い俺が妥当だろう。
確かに嫌な思い出ではあるが、そんな事はこの際どうでもいい。
「ありがとうございます」
俺はナイフを受け取る。
「魔王の信奉者も見つけられましたし、街の外の魔物も撃退出来ました。門の修復もまもなく終わるでしょう。ここは我々だけでも何とかなりますから、神殿騎士殿は本来の職務にお戻り下さい。私の方からも、話はしておきます」
シンケルス隊長の言葉に、先生は少し驚いていたようだった。本来の職務って何だろうか? そういやあのモデストゥスとかいうやつも、『別の任務で来たのに』とか言ってたっけ。
「領主様がお若く、政治に不慣れなのをいいことに、城内には不正が蔓延っています。それをぜひともただして頂きたいのです。折角魔物を撃退したのに、魔王の信奉者を増やしてしまってはいけませんから」
隊長はまた深々と頭を下げた。
不正をただせ? あのモデストゥスとかいういけ好かない野郎なんか、いかにも何かやってそうだよな。街は守らないわ、俺を問答無用で疑うわ鞭打つわ、酷い奴だった。まあ、個人的な恨みで証拠もなく疑いを掛けるべきではないのだけど。
「分かりました。ありがとうございます」
先生も頭を下げた。俺たちは隊長の下を辞し、教会へと戻ることにした。
「あの、『本来の職務』って何ですか? 『不正をただしてほしい』とか言ってましたけど」
昼食の席で、俺は気になっていたことを訪ねてみる。因みに今日の昼食は塩漬け肉の欠片と野菜入りのオートミール粥だ。姉貴のダイエットメニューみたいだな。
「どうも城内に不正を働いている輩がいるようなのです。税金を払っても、彼らが横領してしまうため税収が得られず領主様がさらに税金を上げる……という悪循環が働いて、民から苦情が出ているのですね」
「教団に寄せられる民の声に応え、彼らを護るのも我らの責務だ。シンケルス殿も仰っていたように、あまり支配者への不満が溜まると、魔王を信奉するようになってしまうからな」
「我らを苦しめる勇者の子孫共を滅ぼして下さい魔王様、というわけです」
なるほど。敵の敵は味方ってことになるのか。だけど魔王が都合よく、勇者の子孫たる支配者層だけを片付けてくれるものだろうか。人間共は滅びろってイメージだけど。まあ……ここの魔王がどうだかは知らないし、人間そういう場合は都合よく考えてしまうものなのかもしれない。
「城での調査は明日からですね。今日は少し、街で話を聞いてみましょう。ああそうだ、ついでにトム君の装備も整えましょう。その服では少し寒いでしょうし、街での仕事が終わってからの旅には不向きですしね」
というわけで、昼食を終えた俺たちは街に繰り出した。
街中ではまだ魔物の襲撃騒動の後が生々しく、片付けの真っ最中、という感じではあった。道や建物には損傷が多く見られた。
とはいえ、一応店などもぽつぽつと開いてはいた。衣服を売る店も開いていて、俺たちはそこへ入った。
「おや、神殿騎士さま。街のためにありがとうございやした。今日はどういったご用件で?」
「その子の服が欲しいんです」
「わかりやした」
深緑色のチュニックに、茶色のズボン、革のブーツ、荷物を入れる大き目の肩掛け鞄とウェストポーチ、それから厚手のマントを買ってもらった。村を飛び出したばかりの冒険者みたいな感じだな。
「今度の件でまた、臨時に税を徴収するって通達がありやしたよ。冗談じゃねえ。どれだけ取れば気が済むんだか! お願いですよ神殿騎士さま、モデストゥスの野郎をとっ捕まえてくだせえ。そのために来てるんでしょう?」
やっぱり、あいつ評判悪いんだな。
「税の徴収などが正しく行われているかは調査致します。お辛いと思いますが、もう少しお待ちくださいね」
先生は申し訳なさそうに答えた。
他にもいくつか店を回って状況を聞いてみたが、大体皆言うことは同じだった。若い領主が政治に暗いのをいいことにモデストゥスがやりたい放題している、という認識らしかった。
そんな奴罷免すりゃいいんじゃないかと思うが、城内のことをほぼ取り仕切っているから、そういうわけにもいかないようだった。意外に領主様っていうのも実権はないのかもしれない。
その領主様も、税率を上げまくっているから評判は芳しくなかった。
まあ家臣の非に対して何の対策も打たないというか、気づいてすらいないのかもしれない。その状態で増税って形で損失を民に押し付けたら、そりゃ仕方ないよなって感じだ。
街の不満は大きいようだった。
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