第27話 四姉妹のイベント 6 無愛想な少年・新

空港近くのショッピングモールの駐車場の片隅。

丁度表からは死角になるところに少年達が一人の少年を取り囲んでいた。

取り囲まれている少年、新はいつものルーチンでここに来たのだが、中学生くらいの少年が入り浸っていれば少々悪目立ちするわけで、店舗の従業員からは、愛想は途轍もなく悪いが、妙に礼儀正しい少年にも事情があるのだろうと、比較的好意的な眼で見られてはいたが、少々ヤンチャな少年たちから見れば、毎日来ては大量に昼飯を食べていく少年は面白くなかった。

少年達が早々金銭が豊富なわけが無かったからだった。

「おまえ、毎日豪勢だな」「俺たちに金を貸してくれよ」小綺麗なあたり服に金をかけてる感じがする少年達だった。

新は非常に不機嫌そうな顔を全く変えず、それが少年たちを苛立たせたが、そんなことなど関係ないという表情のまま、「俺はあんた達を知らない。何故金を貸さなければならないのか?」と不機嫌そうな声音で言った。

この状況でこう言ってのけるのは、莫迦相手にバカと言っているのに等しい。

当然少年たちは激昂し、新に殴りかかってきた。

「てめえ!ちょうしのってんじゃねえぞ!」罵声を浴びせながら数人がかりで殴りかかる。

新は一切反撃せず、されるがままに殴られている。

顔を、腹を面白いように拳が入っていく。

少年たちは笑いながら殴り続ける。

何の抵抗もしないのだ。好きなだけ生意気な中学生を殴れる。殴れるのだが何かおかしいと気づいた時には疲れ始めていた。

殴っても殴っても相手は一切表情を変えないし、傷ついてもいない。

少年たちは段々と薄気味悪くなっていき、肩で息をし始めてついにはへたりこんでしまう。

「おい!何やってんだよ!」暴力に参加せずに後ろでニヤニヤしながら見ていた少年が不審げに聞いた。

「お、おかしいんだ…いくら殴っても…」「こいつ変だよ!」少年たちは怯えた表情で、不機嫌な表情のまま平然としている新を見た。

「もういいか?」新は不機嫌そうな声で聞いた。

後ろで見ていた少年はこの一言で頭に血が昇った。

ズボンのポケットからナイフを取り出すと、興奮した息使いで新に切りつけようとナイフを横へと振った。

不意を突かれた新は切先を避けようとしたが、顔の頬を軽く切られた。

それを見た少年はナイフを向けたまま、薄ら笑いを浮かべた。

新は切られたところを手で触り、手についた血を見て…豹変した。

その様を見ていた少年が怯えた表情でナイフを取り落とした。

無愛想で、口をへの字に結んでいた顔は、眦を上げて歯を剥き出しにし、怒りの感情を一切隠さない表情になっていた。

新は彼を切りつけた少年の腕を取ると、軽く引っ張り、少年が怯えて抵抗しようと引っ張り返した瞬間に逆に腕を押した。

「…うあ…わぁっ…」少年は恐怖のあまりか小動物のような細い声しか出ず、バランスを崩されてそのまま足を払われて背中から投げ飛ばされた。

しこたま背中を叩きつけられ、呆然としていると、恐ろしい形相で拳を振り下ろそうとしている相手が見えた。

「やめてー!」情けない声で叫び、両手を顔の前で交差させて防ごうとする。

しかし、打撃が来ることが無かった。

「はい、あんたら、もういいからさっさと行きな。今度は相手をよおく見とくんだね」

栗毛の髪を大きめの三つ編みで纏めた狐目の女性が、振り下ろそうとした腕を掴んでいた。

少年たちはガクガクと頷き、力が抜けた腰でヨタヨタと駐車場から逃げ出して行った。

「先生…」「舞姐さんと言えって言ったろう」新の呟きに、緋弥舞は苦笑して腕を離した。

「ったく。あんたが本気で殴ったらあの坊主ら、死んじまうよ」「……」「それに、その傷はあんたの油断でしょうに」黙りこくったままの新の頭を軽く小突くと、ポケットから出した大きめの絆創膏を傷に貼ってやった。

「…すいません…大事な身体を傷つけてしまった…」「あーもう。その身体はもうあんたのだから。まあ、そんなに気負うなって」ムスッとした不機嫌な顔でしょげかえっている新の頭をクシャクシャと舞は撫でてやった。

「そうだ、今度の日曜日、港のイベント会場に行っておいで。まだ顔は合わせられないけど一回見といで」「……」「あんたの目であの娘らを見て来な」「…先生がそう言うなら」「姐さん」「…姐さん…がそう言うなら…」舞は満足そうな顔をして、新と早めの夕飯を食べにショッピングモールへと向かった。


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