第26話 四姉妹のイベント 5 準備開始
「え?イベント?何の?」瀧家の夕食の席で春菜が聞き返した。
「うん、何か連休中に湊メッセでフリーマーケットやるらしい…」「雪、行儀悪いよ」「…はあい…」左手でスマホを弄って説明した雪に冬菜が注意した。
「それにお母さんのお店が出店の登録してあったんだって」晃が皿うどんを飲み込んでから説明した。
「まあ色々片付いたから参加出来るようになったからな」皿うどんを食べ終えた夏葉がチラシを春菜に渡す。
春菜は箸を置いてチラシを見る。「…へえ。面白そう!」「何のお店?」季璃が母に聞く。
「コスプレ衣装を売りたいのよねえ」母が食後のほうじ茶を手にそう言った。
「コスプレ!たのしそう!」季璃が明るい笑顔で言った。
「…あ、アニメ系同人誌?立体物…?」「…兄さん…」チラシを見ていた雪と晃がジト目で兄を見た。
兄は天井のシーリングライトを見ながらお茶を飲んだ。
「もちろんあなたたちにも手伝ってもらうわよ」母の笑顔に季璃は目を輝かせ、雪と晃は訝しげな顔をした。
春菜は家族で参加出来るなら良いかと思っていた。
衣装を作るのも楽しそうだなと思っていた。
翌日、学校が終わり、家に帰ると春菜は通学鞄を置いてお店に手伝いに行く。
大体が閉店前の掃除や、軽い荷物の整理、簡単な店番くらいなのだが、今日は大変な事になっていた。
洋品店「花鳥風月」から服が溢れかえっていたのだ。
「あ!おかえりー!はるなちゃん!」にこやかに電動ミシンを操っている、季璃が顔をあげて出迎えてくれた。
「…何これ?」「おてつだい!」季璃が縫い終わった服をミシンから外して見せた。昔からよく見るバトル漫画の道着っぽいものだった。
「いや…そうじゃ無くて…」そう言って、数台のハンガーラックと、ハンガーラックに大量にぶら下がっている服を見た。
日曜朝の女児向けアニメのコスチュームは初代から最新作まで揃い、ロボットアニメの金字塔の制服、スポーツアニメのユニフォームも網羅し、最近のアニメのコスチュームもあった。
「…昨日の今日でこんなに…?」春菜は作った量に驚き、こんなに売れるものか?と疑問に思って思った。
チラリと奥を見ると母が鼻歌を歌いながら手縫いでカラフルなフリルをすごい勢いで縫い付けていた。
見れば出来上がった衣装の梱包を、姉と雪、晃がせっせと行っていた。
割としっかりしたビニール袋に畳んで入れているのだ。
「母さん、父さんがアクセサリー出来たって」「はーい、ありがとう」兄が箱を持って入ってきた。
「父さんがコスプレのアクセサリー?」「おう、お帰り」「ただいま。見せて」「いいぞ。俺も少し手伝ってるからな」見れば金属製の細かいアクセサリーが沢山入っていた。華龍を見ているから父の手先の器用さはわかっていたが、実際に見ると驚きがある。
「…採算採れるの?」「全部家で回してるからな。それでもちょっとプラスになる位かもな」兄がそう言って母のところへと箱を持っていった。
「春菜―。こっちも手伝ってー」「はあい」姉に呼ばれて春菜は奥へと入っていった。
「おう、そうだわ。昼に手伝いに行っとるで」いつもの朝の鍛錬の神社でシンマはおにぎりを食べながら答えた。
「ほんとに手伝いに行ってるんですね」春菜は左手の五本の指だけで逆立ちしながら会話する。
「姉ちゃんと兄ちゃんも手伝っとるでね。将は早々に仕上げたらしいで、わしと配達だわ」「…なんかすいません…」春菜が申し訳なさそうにいうとシンマは笑って手を振った。
「で、晃は?」「なんかお母さんが季璃の登校に暫く付いてけって。昨日猫を見てたら遅刻したらしくて」「…ほーん…」それを聞いてシンマは残りのおにぎりを平らげた。
「みゃあ、そういう事なら仕方ないがね」シンマはそう言ってBB弾を親指で弾いた。
春菜はBB弾が弾かれる瞬間に左手の力を抜き、身体を捩って躱し、地面に付いた右足のつま先に力を入れて瞬時に飛んで距離を取った。
「反応はよーなったわ」「ありがとうございました」春菜は頭を軽く下げると通学するために自転車へと戻った。
何時もの交差点へ行くと妹たちが居た。
皆んな手を振ってくれた。
「おはよう」「おっはよー!はるなちゃんー!」「…おはよう」「春ねえおはよ」妹たちといつもの挨拶。
「で、季璃。どこに猫いた?」「んっとねえ、あのおうち!」晃の質問に季璃が指差した。
「どうしたの?猫?」「…昨日の季璃の大遅刻の原因が猫を見てたらしい…」「…そんなに長く?」「…ふつうにねこちゃんみてただけだよぅ…」季璃が両手人差し指の先端を突き合わせながら、口を尖らせた。
春菜はその家の塀の中を背伸びして見る。
太々しそうな大きな黒い猫が、ドスンと座って眼を閉じていた。
「…でかっ」「…ねこちゃん!」「…どれどれ?って雪菜!どさくさでお尻触らない!」姉妹が騒いだのを気づいたデカイ黒猫は片目でチラリと見ると後ろを向いて香箱座りをした。
「うしろむいちゃった…」「行こうよ」「うん」「……」猫がいた家から離れて学校へと向かう。
「…おっきい猫だったねぇ…」「うん!すごくおっきい!」「…でも可愛げがなかった…」「ノラネコかな?」姉妹は笑顔で猫の話題をしながら学校へと向かう。
同じく登校していく生徒からは少々訝しげに見られていた。
「…あっ、皆んな開けてあげて…」春菜が後ろを見てそう言うと、姉妹たちは後ろを見て速足で歩いていく男子生徒の道を譲った。
男子生徒がビックリするような顔をしたので、春菜は笑顔を向けた。
※※※※※※※※
朝が辛いのは前世からだな。
残念なことに毎朝起こしに来てくれる女の子の幼馴染は居ないのが難点だ。
だが、近いうちに朝起こしに来てくれる恋人はできるだろう。
俺は両親とは離れて暮らしている。
父親の長期出張に母親もついて行っているのだ。
だから自分でやらなくてはならないことが多いのが煩わしい。
顔を洗い、歯を磨いて昨日買ったパンをかじりながら家を出る。
多少の行儀悪さは眼を瞑ってほしいもんだ。
通学路の半ばでパンを食べ終えるとあの美少女、ハルナがいた。
他に妹らしきこれまた美少女が二人と、…デカイな…胸も尻も。
だが、四人ともテスタニアにいる人達のようにカラフルな髪の毛と眼の色だ。
デカイ女は姉かもしれない。
だが何で赤いランドセルなんて背負ってるのか?
気になって歩く速度を早め、四人で笑いながら歩く彼女たちに近づく。
フワリと花の香りがした。
その香りにうっとりすると、四人が一斉にオレを見た。
そして道を開けて笑顔を向けてくれた。
その仕草にオレは思わずドキリとして、つい彼女達を追い越してしまった。
オレに笑顔を向けてくれたハルナはやはりオレの彼女に相応しい。
妹達と、姉も良いじゃないか!
今からワクワクが止まらないな。
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