第25話 四姉妹のイベント 4 春菜の場合 

春菜の昼休みは最近誰にも邪魔されないところにいたりする。

風の衣は春菜が待ち望んだ母の服で、大変気に入ってはいるのだが、デザインが割と漫画のヒロインのようであり、特にミニスカートに施された大胆なスリットは、校内の男子生徒の話題になっている。

春菜はスカートのデザインそのものには全く不満が無く、逆に動き易さ重視でいるし、以外に捲れにくくなっているので母の心配りには感謝していた。

だが、男子の視線がスリットから見える太腿に注がれているのは気づいていたが、春菜にしてみればどうでもいい事なのだが、ずっと見られるのも面白くない。

それに香取奈美の件もあり、同級生との関わりも避けるようになっていた。

なので休憩時間や昼休みになると忽然と姿を消していた。

同級生や教師には消えてしまうように思われていたが、実際は体術を駆使して立ち入り禁止の校舎屋上や、体育館の屋根の上にいたのだった。

そして、人目のつかないところで何をしているかといえば、自分の力の検証だった。

風呼びの能力では、四姉妹中春菜が一番弱いのがわかった。

雪のように怪物の足を風で切り裂き、季璃のように相手の重い打撃を風の壁で防ぐ事、晃のように両方ともそこそこやれることも出来ない。

「…兄さんに借りた漫画だと風のスキルで色々切り裂いたり、相手を吹き飛ばすとか有るけど…」そう言って春菜が呼んだ風は小枝を切ったり、相手を少し押し返すくらいの風だった。

それでも自然現象を操るというのは規格外ではあるのだが。

だが、悲観はしていなかった。

春菜は風を呼ぶ歌を少し唄うと手を掲げる。すると手の中に風の衣に包まれた刀袋が現れた。

「…ほんと便利だよねぇ…」手元に来た華龍を刀袋から出し、風の衣を腰に巻いて結ぶとそこに鞘に入った華龍をねじ込んだ。

風呼びとして目覚めた春菜は、記憶の一部を思い出していた。

佐倉が初見ではない事は、未だ物心がついていない時に会っていた記憶からで、佐倉自身も本名を知っていた事に驚いたほどである。

理由としては、生まれながらに高い能力を持つ事が原因であるとは舞の指摘である。

これはシンマに鍛えられる際にも、シンマが『強い』事を知っていた事もある。

しかし、幼少期に高い能力を持ったままでは異世界の勢力に狙われる危険性が高いために封じられていたので、春菜自身は(容姿以外は)平凡な子供でいられた理由でもあった。

雪のリミッター説は的中していたと言える。

春菜は屋上の階段上の一番高いところにいる。

「…煙となんとかは高いところが好きって…うふっ…」どこかで聞いた言葉を思い出して少し吹き出した。

ペシっと両手でほっぺたを叩くと、春菜は風を呼ぶ歌を唄った。すると風が応えるように唄う。

その唄は、常人では風が鳴る音にしか聞こえないが、春菜の周囲に風が舞い、淡い紅毛と風の装束を揺らす。

春菜は大きく二完歩で、屋上を飛び出すと軽く風が足元を押し、更に加速する。

一瞬だけ足場が出来るだけでも動きが大きく変わってくる。

そして、飛んだ先には校庭に立つ旗ポールがあり、その先端の丸いところを軽く蹴って軌道修正し、体育館の屋根に飛び、そこも蹴って校庭の周りにあるポプラの木へと飛び、華龍を抜き構える。

小さく唄うと風が華龍に纏わりつき春菜の周囲に旋風が舞う。

ポプラの木に到達すると、そのか細い枝を軽く蹴り、タタタと登ってポプラの木の高さを超えて飛ぶ。

「ふっ」軽く息を吐いて華龍を逆手で振るうと華龍に溜められた風がヒュゴぅと上空へと舞い上がった。

その時、春菜は風を足元に呼び、トンと風が春菜の足を押すと上空へと舞った風に身を任せた。

一気に三十メートル近くまで舞い上がった春菜は遠くの街並みを一望する。

先日の那古駅のビル群も見えた。西の葉浪山脈も見えた。北のまだ雪が山頂に残っている山も見えた。

そして、風の勢いが弱まるとそのままスゥッと落下する。

また風を呼び、足元を押してもらって跳躍、一歩、二歩、三歩で校舎まで跳び、身体を捻って壁を足で蹴り、三階の高さから身体を回転させて着地した瞬間、華龍を風の衣と共に風に預けた。

午後の授業への準備を知らせるチャイムが鳴ると、生徒たちが校舎へと向かってくる。

その校舎の前に、休み時間に姿を消すと最近では学校の七不思議になりつつある女子生徒を見かけて驚いていた。

春菜はこちらを見て驚いている生徒に愛想の微笑みだけ残して踵を返して教室へと向かった。

心中では自分のスタイルを確立する楽しみがドンドン湧き出していた。



※※※※※※※※

オレの名前は八嶋ヒロ。異世界からの帰還者だ。

いや、正確にはオレの居た世界じゃあないな。

オレはある日、魔導世界テスタニアの知能神に召喚された。

テスタニアはいわゆる剣と魔法の世界なんだが、大魔王ベルトルートの大侵攻により魔族以外の国が滅びる寸前だった。

そこで知能神、デルハルは異世界より救世主である、勇者を召喚するように生き残った国に神託を与えた。

生き残った十五カ国はそれぞれ神に与えられた、召喚の武具と呼ばれる神道具によって勇者を召喚したんだ。

オレはローラード王国で神器イルボートにより召喚された。

十五人の勇者と大魔王との戦いは凄惨だったが、ベルトルートを倒すことができた。

生き残った勇者はオレを含めて七人だけだった。

そしてオレたちは栄光が約束され、英雄として過ごして天寿を全うしたんだ。

その後、知能神デルハルに魂が導かれてデルハルに今まで持った能力を持ったままこの世界に転生させられたが、元居た世界に似通った世界は刺激が無いと思ったね。

何故デルハルはこの世界に転生させたか分からない。

なんとも退屈な世界で過ごす理由が見つからないと思ってたが、オレが通ってる中学校にとんでもない美少女が居た!

テスタニアにいた女のような髪の色と眼の色、活発そうな美形!

同じ学年らしいが、こんな田舎の学校にいるのが奇跡のような美少女だった。

だが、こいつ、休み時間になると姿を眩ましてしまう。

生足がよく拝める丈の短いスカートを履いて注目されているせいか、どうやら人目につかないところにいるらしい。

何度か追いかけようとしたが見つからなかった。

しかし、今日の昼休みが終わるタイミングでバッタリと出会した!

すると、その美少女、ハルナはオレを見て笑ってくれた!

やっぱり異世界でチート持ってたおかげかもしれない!

こっちでも女に苦労せずにすみそうだ!


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