第24話 四姉妹のイベント 3 雪と晃の昼休み
小学校での昼休み、雪と晃は晴れた校庭の片隅にいた。
給食後は最近二人で人がいないところで相談するのが日課になっていた。
日本人とは思えない髪の色と眼の色、美少女と言っていい顔つきなので学校の人気者もしくはいじめの対象になってもおかしく無いのだが、双子の姉の小学校時の武勇伝の影響もある。
チョッカイをかけた男子生徒が散々に泣かされた、親が抗議したら母が全て笑顔で解決した、教師も校長も母に敵わなかった、いじめを画策した市会議員の親を持つ女子生徒が散々姉にやられて市会議員の親が土下座して謝りに来たetc…と未だに学校の伝説となっているので、ある意味腫れ物扱いであったし、彼女たちにしてみればこれ幸いであった。
「…そう考えると春菜姉は既に力が強かったのかもしれん」紅い瞳を鮮紅色した雪が、いや雪華が言った。
「…でもさあ、はるなねえさん、身体能力は普通だったわヨォ」今度は薄紅色の瞳で雪、いや雪菜が言う。
「…リミッターが付いてたかもしれない…」普通の紅色の瞳になった雪が呟いた。
そんな雪三人の議論を晃は側から見ている。
瀧家の三女雪は、多重人格者だった。
生まれつきと言うわけでは無い。
昨年の年末、双子はこの世界に紛れ込んだ転生者に襲われた。
晃に自転車競技で負けた中学生たちが、報復として雪を人質に取って晃を誘い出し、散々晃にコテンパンにやられた。
その中学生を誑かしたのが転生者だった。
この世界でも上質の能力を持つ子供を散々嬲って自分の能力の底上げに使おうとしての凶行だった。
雪は小さい頃から機械いじりが好きな奇妙な女の子で、晃は活発な女の子だった。
だから自然と二人で役割分担ができていたと言える。
だが、小学生が転生者相手に手が出るはずもなかった。
雪を守るため晃は散々転生者に痛めつけられ、雪がそれに怒った時、雪の中のタガが外れた。
雪の中に眠っていた力がそれによって目覚めたのだった。
それは、雪だけが母に聞いたところ、双子の産まれに関わってくる事だった。
双子の本当の母は長姉の冬菜だった。
守護者として風を呼び、母譲りの風使いとして、また父譲りの剣士として最強の存在だったという。
だが、守護者と敵対している人物に隙を突かれて氷と秩序の神の種と卵子を受胎させられた。
この種は姉の卵子と融合すると、氷の悪魔が産まれてしまうというが、堕胎させることも出来ないほど深く根付いてしまっていた。
その対策として、三つの世界を生きたこの世界の龍を義理姉に持ち、その龍に鍛えられて育てられた父の種を姉の卵子に神の受精卵に融合される前に受胎させる事でその神の力を弱体化させることになる。
父を育てた龍の力は父にそれだけの資質と力を継承させていた。
その弱体化に時間が掛かるため姉は長い間、龍の棲家に封印されていたと言う。
その後、弱体化が確認されたために姉の封印は解かれるが、姉の胎内の受精卵二つは母に移されて双子が産まれた。
それが雪と晃だったが、その事件の際にタガが外れた雪の中にいる悪魔が覚醒、風呼びの能力を携えて転生者を殺し、その後自分を封じる存在であり、まだ風呼びに目覚めていない晃も手にかけようとしたが、ここで晃も風呼びに目覚める。
晃には父の義理姉である龍の力が、姉の長い封印の間に備わっていたのだ。
氷の悪魔の力と、世界を超えて生きた龍の力は決着がつかず、最後は晃の捨て身の頭突きで雪が正気に戻った。
そして、雪の中に別の人格も目覚めたのだった。
龍の力と風呼びの力が悪魔の力によって変質した意識が芽生えたのだ。
癒す風を使える雪菜、冬の風を使える雪華、風呼びの雪である。
雪は性格が掴みにくいマイペース、雪菜は少しエロい、雪華は生真面目で分析屋と使い分けている。
こうやって入れ替わって出てくるが、三人とも互いを認識しているのだった。
そして、雪の奥底には晃に敗北した秩序と氷の悪魔、便宜上『ユキ』と呼ぶ人格が眠っている。
双子の親が長姉の冬菜であることは、晃は知らないが、雪が多重人格になったのは、次姉と末妹は知らない。
「リミッターって?」三人の雪の意見に晃が聞いた。
「…春菜姉さんが危ないと感じると、力が出る…普段はそれが抑制されているってこと…」「…なるほど」晃はそう言って、足元に落ちている小石を拾って、手首のスナップだけで百メートル先のバスケットゴールのリングに小石が命中した音がした。
「…あたしでもこうだもんね…」「…多分、鍛錬の最初ににシンマさんに立ち方を直されたと言ってたから、それがリミッターを外してたかもしれない…」雪の意見に晃は頷いていた。
「そういえば小学校の頃鍵の掛かった教室の扉を蹴破ったとかあったね」晃はうんうんと頷いた。
「守護者ってなんだろねぇ…」晃の呟きに雪は雪なりに知った事で意見はあるが、それは言えない。
それに雪は『ユキ』から自分を取り返そうと全力で立ち向かった晃には姉妹・家族以上の感情があった。
「…でもこの世界に住むなら護る人は重要…」「…だよねえ。お父さんたちの娘だからあたしたちがそいうのになっちゃったのかな」「そう考えてもいいのかもしれない」鮮紅色の瞳の雪華が頷いた。
「まあおかげで私は晃ちゃんと姉妹になれたし」「…雪菜…指の動かし方ヤバいって…」薄紅色の瞳の雪菜が指を晃の身体に沿うように動かし、晃は困ったような顔になる。
「…ま、でもみんなといられればいいかな!」「…そういうのもいいと思う」晃の前向きな言葉に紅色の瞳の雪が頷いた。
「それになんか世界を護るってのもいいじゃない!あたしワクワクするよ!」
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