第23話 四姉妹のイベント 2 季璃の朝
瀧季璃は、一人で登校している。
いつもは姉と一緒に登校しているのだが、今朝は上の双子の姉が次姉の鍛錬に付き合うと称して、朝早くから居なかった。
大きな身体で大人と見紛うばかりのスタイルだが、甘えん坊の季璃にしてみれば寂しいかというとそうでも無かった。
風呼びが使えるようになってから風が自然と色々教えてくれるからだ。
そこに鳥がいる、猫がいるといった類で、双子の姉たちと登校していても結構寄り道していたりしていた。
今朝もあちこちキョロキョロしながらご機嫌に赤いランドセルを背負って歩いていた。
見た目がかなり異質ではあるのだが、季璃はこの辺りの有名人で、割と人気がある。
小さい頃から屈託がなく、誰にでも朗らかに応対するので自然と笑顔になるのだ。
去年に今のスタイルになった時は驚かれたが、全く変わらずに屈託なく朗らかにいるのですぐに慣れてしまった。
今も通学路のおじさん、おばさんに挨拶していた。
鼻歌を歌い、微風を運ぶように(実際に微風を呼んでいる)歩く季璃は人気者だった。
ただ、去年の秋に風呼びになる切っ掛けになった事件は季璃のこの性格が関わっているので、母からはよく風に尋ねなさいと言われていた。
実際、季璃の呼ぶ風はその人を探るような事もやってくれる。
四姉妹の中では最も強力な呼び手でもある。
季璃が鼻歌を歌いながら歩いていると、道端でしゃがんでいる女性が居た。
家の塀の隙間を覗っているようだった。
「おねえさんどうしたの?」季璃は思わずそう聞いた。
「…向こうに居る黒猫を見てるの」「ねこ?」季璃はそう言って高い身長を活かして背伸びして、塀の向こうを見た。
するとその家の軒先の下に、大きな黒猫が香箱に座って目を閉じていた。
「ねこちゃん!」風が掴みきれなかったのは寝ていたからなのか、嬉しくなった季璃が思わずそういうと、黒猫は太々しくチラリと季璃を見て、大きく伸びをし、口を大きく開けて欠伸をするとノソノソと季璃の反対側へと歩いて行ってしまった。
「あー…行っちゃった…」季璃がしょげていると女性はクスクスと笑い立ち上がり季璃を見た。
白い肌に長い黒髪は艶やかに真っ直ぐで、黒い切れ長の瞳で季璃が見ても美人だと思った。
黒いリボンとフリルを多用した所謂ゴスロリの格好で、片田舎の通学路には似つかわしく無い。
「ごめんなさい…」しかし、季璃はその女性に頭を下げた。
「あら?どうして謝るのですか?」「…おねえさん、ねこちゃんみてたのを、きりちゃんじゃましちゃった…」
それを聞いて女性はまたクスクスと笑った。
「いいのですよ。偶々見かけてただけなんですから」「…ほんと?」「ええ」それを聞いて季璃は、パッと笑った。
「季璃」季璃は母に呼びかけられて振り返った。
「おかあちゃん!」「誰とお話ししてるの?」「あのね!キレイな…」母に問われて振り返ると誰も居なかった。
「あれ?」「誰かいたの?」「…うん…キレイなおねえさん…」「何処か行ったのかしら?」「うーん…」季璃が首を捻っていると母が季璃の隣に来た。
「学校は大丈夫?」「ほぇ?」母がそう言うと母は自分のスマホの時間表示を見せた。
「ふわあああああ!」見ればもう始業時間を回っていた。
「お、おかあちゃん!きりちゃんいくねー!」「気をつけてね」季璃はあたふたと大急ぎで走って行った。
母の秋華はそれを見て笑った。
「…余り悪戯はしないでほしいけどね」そう呟いて家の方に歩いて行った。
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