第19話 咲き誇る世界 2

晃、雪、季璃は合体巨人の相手をしながらその光景を見ていた。

姉の身体を奪おうとする少女が落ちていった時、思ったのは彼女に姉がどうなったかということだった。

が、雪が背負っていたナップザックから母が作った姉の服が自然にするりと飛び出ると確信した。

「え?なんで?」しかし、その服が風によって解けていく事には驚きの声をあげた。

だが、解けた服はまるで美しい布のように織り上げられ、それが全裸の彼女の姉にまるで天女の羽衣のように纏われた。

「晃!ボクの武器ちょうだい!」姉の叫びに確信した晃は背中に括っていた刀袋を外し、「春ねえ!」と叫びながら放った。

刀の先端を持って放ったために、意外にクルクル回りながらも正確に春菜の手元まで来た。

春菜はそれを一瞥して左手で掴み、一動作で刀袋の口を括っていた細布を解き、刀袋の底側を右手で掴んで左手を一瞬放して引っ張ると春菜の手元で刀袋を抜いた勢いで中に収まっていた脇差しほどの大きさの刀が鞘ごと二回ほど回って左手で掴んだ。

その脇差しほどの長さの刀は真っ直ぐで、鞘は濃い桃色、鐺は薄緑、下緒は真紅、柄は下緒と同色で革紐だと分かる。鍔は白金色で美しい。

その刀を春菜は無造作に抜いた。

薄桃に光る刀身はまっすぐで刃紋は棟まで磨がれている。

龍の棲家で伸びた欅で鞘を、龍の爪を龍の吐く息で鍛えた刀身、龍の皮膚から分け与えられた皮で柄と下緒を設え、風の女王の護り石の白金で鍔を作っていた。

その刀を扱う所作は美しく、三人は一瞬姉に見惚れてしまった。

巨人がその中を怠慢に動く。指令を出す『黒井真穂』がいなくなったが、彼女達の邪魔をする動きは続いているようだった。

それに気づいた季璃が風を呼ぶ歌を唄い、風が呼応して巨人の動きを止める。

「はるなちゃん!唄って!はるなちゃんのを呼んで!」季璃の叫びに春菜は頷き、歌を唄い風を呼ぶ。


風がそれに応え、乱れ吹いていた強風が春菜の意思に応じて春菜を羽交締めにしていた魔法人形が春菜を捕まえようと藻がいていたところを吹っ飛ばされた。

晃がそれを見て風を呼び、季璃も同じく風を呼び、雪も更に風を呼ぶ。

四姉妹の歌に風は更に吹き、強く優しくこの場で吹く。

すると空から色とりどりの華が咲き誇るかのように舞い、この世界に彩りを思い出させるように広がっていく。

四姉妹の内から湧き上がるのは、この世界の風が、風の女王の後継と見做された事。

「晃!ボクはデカイの!雪!晃を!季璃は様子見!」「うみゃ!」「ん」「わかった!」

風の羽衣を纏っただけの春菜は爪先を軽く、トンと跳ねさせると勢いよく跳躍し、巨人に飛ぶように向かった。

晃は、雪の風が春菜を羽交締めにしていた魔法人形に無数の風の刃を放ち、足を一本断ち切られたところを「うにゅにゃああ!」と猫の雄叫びのような声を出して晃龍で袈裟斬りに斬りつけた。

魔法人形はジグソーパズルのように細かく分解して消えた。

「…華龍…父さんが作ってくれた刀…」春菜の右手に逆手で握られた直刀は、春菜の風を受けて持ち主に語りかけた。

風を呼び、風で足場を作った春菜は、身体を捻り、左足でその風の足場を蹴る。

風を纏い、その風が咲き誇った華を纏い、春菜は高速で捻り回転で風を纏った華龍で巨人を斬った。

巨人は無数に斬られ、細かく分解し、消失した。

春菜は屋上へと爪先から静かに着地し、華龍を鞘に納刀した。

雪、晃、季璃が春菜に駆け寄った。

春菜は妹達を見て、顔をクシャクシャにしてしゃくりあげて泣いてしまった。

それを見て慌てて晃と季璃が姉に抱きつき、一緒に泣き始めた。

それを見ていた雪は安堵のため息を吐き、涙を拭い、その輪の中に入っていった。


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