第17話 風の三姉妹の戦い 2

三人は高度一〇〇メートル程で輸送機から飛び降りた。

真下には老舗百貨店の屋上が見える。

晃の目には何か異様な人型のモノと、黒い髪の中学生女子、そして淡い紅色の髪の姉が見えた。

三人は降下しながら口から風を呼ぶ歌を唄うと、風がそれに呼応して唄を返しながら彼女達にまとわりつく。

そして、落下速度が一気に落ち、その間に三人は姿勢を整えて着地に備えた。


黒井真穂に見えたのは大きな飛行機がビルの合間を縫うようにこちらに接近して、そこから鮮やかな髪色の少女達が落ちてくる光景だった。

その落下も風の音が大きく耳を叩いたと思ったら急速に減速し、フワリと屋上に少女達が降り立ったのを見た。

自分がその肉体を奪おうとする、瀧春菜の妹達だった。


晃は腰にぶら下げた晃龍を左手で鞘から抜いて姉の近くに立つ少女に向けた。

「春ねえを返せ!」その言葉にい黒井真穂は鼻で笑った。

「…その様子だと私が何やるかわかってるようね…」黒井真穂はカプセル大の入れ物をポケットから取り出して彼女達の前にばら撒いた。

黒井真穂のいた世界で、聖女神が作り出した魔法人形。

人間の死体を材料に使用者の命令を忠実にこなす殺戮機械。

全身黒く、胴は痩せ細っているが、両手は異様に長く鋭い爪が三本生えていて、両脚は短いが逞しい。

それが十体、三姉妹の前に出現した。

「ゆきちゃん!なんか出た!」「晃!私と季璃が援護する!」季璃の言葉に瞳を鮮紅色にした雪が叫んだ。

「…季璃、晃に風の守りを…」「うん!」瞳を紅色にした雪が指示を出すと、季璃が一小節唄った。

すると周囲の風が歌いながら呼応して、晃の周りに風の渦を作った。

雪も唄った。すると風が呼応して唄って雪の指し示す方へと吹いた。

晃の進路上にいた魔法人形が一体、右足を膝から切断した。

「うりゅりゃあ!」それを見た晃は突っ込んで晃龍でその魔法人形の首を斬り、「あににゃあ!」爪を振り落とそうとした相手の腕を切断、「ふにうにゃああ!」返す刀で後ろの相手の胴を薙ぎ払って、歌を唄って風を呼び、飛び上がって黒井真穂まで一気に跳躍した。

「くっ!?」黒井真穂は刀を構えて一気に迫ってきた赤毛の少女に驚き、手持ちのカプセルを一個地面に叩きつけて魔法人形を出し、ずっと付いてきた魔法人形に春菜を抱えさせて後退りした。

いきなり敵が現れた晃は、それでも相手を見て「うりにゃあああ!」一気に斬り倒した。

「この!」晃は斬られて分解する魔法人形を掻き分け、黒井真穂に迫ろうとするが、真穂は魔法人形に掴まれた春菜にナイフを突きつけたのを見て、その場で止まった。

「動かないで。姉の命が惜しいでしょ?」そう言った黒井真穂に雪は呆れた。

「春菜姉さんの身体を奪おうとしてるのに」『何言ってるのかしらね!』『全く呆れたものだ…』と呟いたが、「くっ!卑怯な!」と晃が固まってしまい、少しずっこけた。

「そーだよ!ひきょうだ!」季璃も怒り顔でそう言ってるのを見て雪は(この妹達は…)と頭を抱えた。

止まった瞬間を狙われて、晃が魔法人形に突き飛ばされるが、季璃の呼んだ風でダメージは無い。

晃は慌てて雪の横に来て、「雪!どうしよう?!」と情けない声で聞いた。

「…あきらちゃん、後でオシオキ」薄紅色の瞳で雪が言うと、晃はなんで?という顔で雪を見た。

「アハハ!バッカじゃない?!私はあなた達の姉の身体が欲しいのよ?死なせるわけないじゃない」そう哄笑した黒井真穂を見て、晃と季璃はしまった!と言う顔をし、雪は首を左右に振った。

ニヤニヤと笑った黒井真穂は、魔法人形達に「合わされ!」と言うと、真穂の近くにいる個体以外の魔法人形が次々と繋がり始めた。

そしてあっという間に巨大な一体の魔法人形になった。

それは全高が五メートルほどで、逆三角形の歪な胴体に太い両手と太くて短い足が生えているような姿だが、大きい割に素早く太い右手を彼女達に振るった。

「こにょっ!」晃がそう言って晃龍を両手で構えて一番前に出て拳を受け止めるが、破裂したような音がして風の護りを破って晃を吹っ飛ばした。

「にゃあああ!?」後ろに吹っ飛んだ晃は、雪と季璃の方へ吹っ飛び、二人は晃を受け止めようとするが、「くうっ!?」「きゃああ!」三人とも大きく飛ばされて屋上の縁まで転がってしまった。

そのまま転落防止のフェンスへと叩きつけられた。

黒井真穂は邪魔者が離れた隙に魂替えの珠を取り出し、それを自分の胸に押し当てる。

すると、珠は弾けるように割れ、何か靄のようなモノが黒井真穂の中に入り、何か靄のようなモノが出てきて割れた珠が元に戻った。

黒井真穂はその珠をポケットにしまうと魔法人形に羽交締めの状態で立たされた虚ろな表情の春菜に近づく。

「こにゅおお!」晃は変な声で気合いを入れ、歌を唄う。

風がそれに呼応し、唄いながら黒井真穂に向かって強風を叩きつけようとする。

だが、合体魔法人形が立ちはだかり、それを黒井真穂に向かうのを防いだ。

「アハハ!知ってるわよ?あなた達の風の力が弱いって!そんなのでそいつは倒せない」

「合わせたらどうだ?晃、季璃!合わせろ!」瞳を鮮紅色にした雪が二人に呼びかける「うん!」「分かった!」三人は揃って歌を唄い、風を呼ぶが三人の周囲で風が暴れて三人を巻き上げた。

「あれ?!」「うにゃ!!」「しまった!」季璃が転落防止フェンスの上を飛び越え、雪が屋上の植木に突っ込み、晃は辛うじてフェンスを掴んだ。

「きゃああ!」季璃は屋上から落下しそうになる。「季璃!」晃が飛ぶように季璃に向かい、季璃の右手を掴んだ。

「うにに…!」辛うじて左手一本で掴んだが、右手は柵を掴んでいるので両手で季璃を掴めない。

植木に突っ込んだ雪は何とか立ち上がり、自分の中に居る多重人格の雪菜(人格が出ると瞳が薄紅色になる。やや卑猥な性格)と雪華(人格が出ると瞳が鮮紅色になる。冷静な性格)と素早く相談する。

「風の力で何とか相手を離れさせれない?」『無理よー。あのブサイクなのに邪魔される!』「風を呼ぶ威力を上げれば…」『駄目だ。三人ではまたさっきのようになる。足りない』「八方塞がり…?」雪の顔が青褪めた。

黒井真穂は邪魔者が居なくなったと魂替えの儀式を行うことにした。

「聖女神が祈祷す。此の世と此の世を繋げよ」百貨店の屋上の空気が軋んだ。


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