第15話 ある少女、瀧春菜の試練 3

「…家具屋?」ベッドや机、椅子や棚などが所狭しと並んでいた。

中には店内の宣伝用の液晶テレビが映像を音付きで流しており、静寂だった今までとは違う環境になっていた。

春菜はその店内に足を踏み入れ、周囲を伺うように視線だけを動かして先へと進む。

日用品雑貨を置いてある棚が沢山並んでいるところへ来ると足を停めて少し身体を後ろに反らせる。

木製の食器が並んでいる場所に鋭利な刃物が着いた細い短刀が刺さった。

グルッと見回すと三体の小柄なフード付きのマントを被った何かが急速に近づいて来る。

春菜はそれを一瞥すると、低い姿勢で前方へと跳んだ。

一体の内懐に一気に入ると、肩でタックルをして相手の姿勢を崩し、左手でフード部分を掴み、引っ張る。

一瞬露わになった顔は黒いのっぺらぼうだった。

「…この…オバケめ!」春菜はそう罵ってフードを掴んだ腕を振り抜き、ガラス製品が詰まった棚に投げつけた。

フードを被ったのっぺらぼうは、棚ごと盛大に倒れる。

その隙に残りの二体が細い短刀を次々と投げつけて来るが、春菜は左右に上半身を動かして全てかわす。

姿勢を低くした状態で落ちているガラスの皿を二枚右手で拾うと、それをフリスビーの要領で一気に投げた。

ガラスの皿は回転しながら一枚ずつフードを被ったのっぺらぼうの顔面に突き刺さった。

のっぺらぼうは怠慢な動作で後ろに倒れ、一瞬痙攣したかと思うと動かなくなった。

春菜は一応相手が動かないか少し離れて確認するが、ぴくりとも動かないのを見て先へと歩きはじめた。


すると、今度はエスカレーターが動いているのを見てうんざりした。

ため息を吐くとそのエスカレーターを駆け上がる。

「…家具屋?」ベッドや机、椅子や棚などが所狭しと並んでいた。

中には店内の宣伝用の液晶テレビが映像を音付きで流しており、静寂だった今までとは違う環境になっていた。

春菜はその店内に足を踏み入れ、周囲を伺うように視線だけを動かして先へと進む。

日用品雑貨を置いてある棚が沢山並んでいるところへ来ると足を停めて少し身体を後ろに反らせる。

枕が並んでいる場所に鋭利な刃物が着いた手裏剣が刺さった。

グルッと見回すと三体の小柄なフード付きのマントを被った何かが急速に近づいて来る。

春菜はそれを一瞥すると、低い姿勢で前方へと跳んだ。

一体の内懐に一気に入ると、肩でタックルをして相手の姿勢を崩し、右手でフード部分を掴み、引っ張る。

一瞬露わになった顔は大きな一つ目の顔だった。

「…この…オバケめ!」春菜はそう罵ってフードを掴んだ腕を振り抜き、寝具用品が詰まっている棚に投げつけた。

フードを被った一つ目オバケは、棚ごと盛大に倒れる。

その隙に残りの二体は手裏剣を投げながら近づいて来るが、春菜はそれを後退しながら左右に動き全てかわすと近くの棚にあったガラスの花瓶を一個ずつ両手に持ち、それを次々に鋭く投げる。

その花瓶は、二体の顔面に命中し、怠慢な動きで後ろに倒れた。

それぞれが少し手をゆっくりと宙に動かすが、がくりと手が力を失った。

最初に投げ飛ばしたのも動かないのを確認して、春菜は先へと進む。

上へと登る階段を見つけて少しうんざりした。

登り階段への灯りがついていたからだった。


春菜は敢えてゆっくりと階段を登って行くと…「また家具屋?!」流石にこれはおかしいと警戒した春菜は慎重に先へと進む。

すると、雑貨の棚が倒れているのを見つけ、その棚にフード付きのマントを被った小柄な人型のモノが倒れ込んでいた、

「なんで…?」不審に思った春菜はそこへと近づくと、残りの二体も床に倒れ込んでいた。

棚の上に倒れているものの顔を見る。

黒いのっぺらぼう。

残りの二体のうちの一体の顔を見る。

黒い顔に皿が突き刺さっていた。

もう一体の顔を見ると「っひ!」春菜は息を呑んだ。

そこには額の中心に皿が刺さり、血と何かの物体が漏れ出ている晃が白目を剥けて倒れていた。

「…ちょっと!!晃っ!何で?」春菜は慌てて晃を抱え起こすが、マントが脱げると晃の服が目に入った。

「晃!晃ってば!」春菜は必死に晃の身体を揺さぶるが全く動かない。

その事実を知った春菜は晃の身体を手放すと、後頭部が床に叩きつけられる音がする。

だが、晃は身じろぎもしない。

「…あっああ…」春菜は首を小さく左右に振りながら後退り、振り返って走って行く。

並んだ家具の合間を勢いよく走って行くが、脚をアチコチに引っ掛け、よろめいてもいる。

「…なんで?…なんで!?」恐れと混乱が混ざった表情で譫言のようにそう繰り返しながら走って行く。

階段を駆け下り、進むと「ひぅっ!?」変な呼吸をした。

寝具棚が倒れ、そこにフードが付いたマントを着込んだ小柄な…。

春菜は恐る恐るそれを見る。

顔は一つ目お化けだった。花瓶を投げた方を見る。

一体は一つ目が潰れていた。

唾を飲み、もう一体を見て「ふグゥっ!!ぐうっ!おええええ!げっ!」胃の中のものを吐き出した。

フードの隙間から見えたのは、顔の真ん中が潰れ、片目が飛び出した雪がいた。

ピクリとも動かないそれをみて、春菜は床に盛大に吐瀉物を吐き出す。

胃の中が空になっても吐き気が治らず、黄色い胃液を吐き続け、顔と上着を汚していた。

「……ぎ…ゆぎぃ…なんで…うごぉ!」また吐き、浅い息で連続呼吸し、何とか立ち上がるがもう視線は定まってなかった。

春菜はフラフラになりながら覚束ない足取りでそれでも来た道を戻る。

どうしても、どうしても確認しなければならない事があった。

まだ登りで動いてるエスカレーターまで辿り着き、無理矢理降ろうとするが、足取りが重いので中々下階へと行けない。

途中、足がもつれて転倒し、勢いよく下へと転がる。

動くエスカレーターに服を挟まれ、上着が破れる。

何とか立ち上がった春菜はフラフラになりながらも進むと婦人服売り場に着く。

もう何が何だか判断できない春菜はそれでも目当てのマネキンに近づく。

「…あぁ…あああぁ………」季璃の服を着たマネキンだと思っていたが、そこには口から血を滴らせた季璃が虚な目でこちらを見るように倒れていた。

春菜は絶望の声を上げながら両手で顔を覆う。

妹たちを妬ましく思っていた事を思い出す。

母のお手製の服を着て、自分に内緒で何かやっていた。

家族も自分に説明してくれない。

「でぼ…ころずずもりば……ああ!」吐瀉物と涙でグシャグシャになった顔は後悔と懺悔に満ちて泣いていた。

妹たちの顔が浮かぶ。

ニコリと笑って挨拶している。事故に遭った時はものすごく心配そうな顔で泣いていた。無事だと分かった時も泣いてくれていた。

「ああああああああああああああ!!!!」春菜は腹の底から吠えて駆け出した。

自分の身体能力を全て使い、ただひたすら走った。

吠えながら、泣きながら、泣きじゃくりながら走った。

気がつけばあのカフェに居た。

肺が限界を悟り、乱れながらも呼吸を促す。

何度も何度も呼吸を繰り返すと電子音の呼び出しが聞こえた。

カフェの店舗電話が鳴っていた。

夢遊病者のように受話器をとり、耳に当てる。

「春菜?なんで妹たちを殺したの?」母の声のように聞こえたその一言で、春菜は壊れた。



魔法人形を従えた黒井真穂は、デパートの婦人服売り場の床で吐瀉物と涙そして小便で汚れ、赤ん坊の様に丸まって縮こまっている春菜を見た。

靴の足先で肩を突いても、口から小さく謝罪の言葉を繰り返すだけの様子を見て自然と笑みが溢れる。

「はは……ははは……アハハハハ!」遂には大きく哄笑してしまう。

その様子は中学生に見えず、女衒のような目付きでもあった。

「……あの時の野郎もこんな気分だったのかな?ハッ!」脳裏に浮かんだ不愉快な記憶を笑い飛ばして消し去る。

黒井真穂はしゃがんで春菜の顔を覗き込む。

焦点が定まらない瞳は虚に開き、口は常に小さくブツブツと謝罪を繰り返すだけ。

淡い紅色の髪を掴んで持ち上げるが一才反応が無いことに満足した。

「…あのクソ女神も狙ってたから念入りに準備したけど。ふふ、私の力には及ばなかったと…。こんな力があるから…!クソっ!」掴んでいた髪の毛を離し、春菜の頭は床に落ちた。

「おっと…大事にしないと…一応、この世界最強らしいから…ほんとかしら?」黒井真穂が右手を挙げると魔法人形は春菜を無造作に抱え、歩き出した黒井真穂の後を厳かに着いて行った。


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