話に登場する狸の衣装

〇金長が穴観音に出立する時の衣装


 「四国奇談 実説古狸合戦 第五回」(九〇ページ)では「紺緞子(こんどんす)天鵞絨(びろうど)深縁(ふかべり)取つたる野袴」と書かれています。

 「緞子」、「天鵞絨」、「深縁」がどういうものかは検索して調べたほうがいいかと思います。


 この格好に近い姿をしているのは、「松の操美人の生埋」という話に登場する粥河図書という人物です。


 「円朝全集.巻の五 松の操美人の生埋 一」(一ページ)によると、金森兵部少輔の重役で悪事を働いた賊だということになっていますが、「松の操美人の生埋」はフランスの「Buried Alive(Buried a life)」という話が元になっていて、そこに登場する「ヴリウ」の役が粥河図書となっているので、創作の部分が多いように思えます。


 「円朝全集.巻の五 松の操美人の生埋 三十二」(一一八ページ)に「紺緞子に天鵞絨の深縁取つたる野袴」とあるので、円朝の話を演劇にしたものが公演されていて、それが評判になったから「ヴリウ」に当てはまるような役の人物の衣装にあわせたのかも知れません。


 その一方で、阿波狸合戦には合戦話なども含まれていますし、天保水滸伝の影響も受けているという説もありますので、歌舞伎などでいうところの「荒事」で使われる衣装を用いたとも考えられます。


 そのようにしたほうが「格好よく見えるから」というのもありそうです。



〇金長らが穴観音城に入り込んだ時の衣装


 「古狸奇談 日開野弔合戦 第二回」(三六ページ)には「小具足(陣中でくつろぐ時に使用される鎧兜に付属する装具)腹巻(下級武士用の胴体を守る甲)に身を固めまして忍び姿」と書かれています。


 合戦物の演劇で城攻めをする下級武士、あるいは仮名手本忠臣蔵の討ち入りのシーンを演じる時の衣装を使っていたのではないでしょうか。



〇六右衛門の衣装と刀


 「古狸奇談 日開野弔合戦 第二回」(四一ページ)では「被髪の姿」で「悪鬼羅刹荒れたる勢ひ」という姿で登場しています。


 被髪に悪鬼羅刹な恰好は、歌舞伎では「人間をやめた」状態を表現しているように思えたので、ここでは「化け狸をやめてもっと危険な何か」に変わったと解釈できそうです。


 この時、六右衛門が右手に持った陣刀は「三尺六寸もあらう」長さと書かれています。

 神棚の棚板には三尺六寸五分(約一一一〇㎜)のものがあるので、ここに納まるギリギリの大きさと考えればいいのでしょうか。


 刀の種類や刀匠については書かれていませんでした。

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