話に登場する人物

〇大和屋茂右衛門 「四国奇談 実説古狸合戦 第一回」(六ページ、他)


 金長を助けた人物です。

 「四国奇談 実説古狸合戦 第一回」(一三ページ)では「紺屋の嘉平治」で奉公していたとなっていますが、これより前に書かれた「古狸金長義勇珍説 乾」(0263ページ右側、他)、では「大和茂十郎」という名前となっていて、「大和屋礒五郎」方に弟子入りした後に自立して「梅山」と名乗ったとあります。


 どちらの話でも奉公中に付け火に遭ったところを金長に助けられたことになっていますが、「四国奇談 実説古狸合戦 第一回」では「三十四五年前」の「八月八日」、「古狸金長義勇珍説 乾」(0275ページ右側)では「四十か年前」の「三月十八日」となっています。


 江戸の街でもそれ以外でも火事は起きているので、いつ、どこで起きた火事が話の元だとは言い難いのですが、八を「ぱち」と読めば木が火の中ではじける時の音のように聞こえることから八のつく日を選んだのかも知れませんし、他に理由があってその日にしたのかも知れません。


 「徳島藩士譜」には「北島源蔵 由章 六代」の後に「天保六年 未年 八月八日 御奉公御免」、「北島藤蔵 存宜」の後に「天保六年 未年 八月八日 召出」と書かれていますが、日にちの一致はただの偶然であって、庚申新八の話に登場した北島藤蔵がこれに関係しているとは思えません。



〇歌吉 「四国奇談 実説古狸合戦 第三回」(四七ページ、他)


 狸の高洲と衛門三郎に痛い目に遭わされる猟師です。


 「古狸金長義勇珍説 乾」では名前が「宇兵衛」であったり「夘兵衛」であったりしますが、鷹匠に化けた藤の樹寺の狸に縛り上げられたところを高洲に助けられています。


 この時に「うへえ」と言葉を漏らしたかどうかはわかりません。


 どちらの話でも名前に「う」がついているのは、鷹狩の獲物に「うさぎ」が含まれているからでしょうか。


 また、この後に頭を剃らせて地蔵院に来るよう約束させているのですが、地蔵院の本尊が地蔵菩薩(閻魔の化身)であることから、生きているうちに地獄の裁きを受けて殺生の業をおとすために地蔵菩薩参りを勧めている、というふうにも読めそうです。


 神社仏閣(パワースポット)巡りも含めた観光旅行の宣伝と言ってもいいのではないでしょうか。



〇中の郷のお虎 「四国奇談 実説古狸合戦 第四回」(六五ページ、他)


 狸の火の玉と金の鶏を痛い目に遭わせる婆さんで、歌吉と対の話になっています。


 「古狸金長義勇珍説 乾」(0288左側)では「祖母」とあって名前は出ていません。

 また、同じ「四国奇談 実説古狸合戦 第四回」(六七ページ)では酔ったお虎が狸たちをからかっていますが、「古狸金長義勇珍説 乾」にはそのような記述はなく、いたって冷静に対応しています。


 講談として面白おかしくするために「酔って暴れる」という場面をつけ加え、そうした様子を「虎になる」と表現することから、「お虎」という名前に変えたと考えられます。



〇六海坊 「古狸奇談 日開野弔合戦 第三回」(五四ページ)


 甲州の人で、よく当たる神籤を売ったので庚申堂の普請ができたというふうに書かれています。


 同じ「古狸奇談 日開野弔合戦 第三回」(五三ページ)には「今より五年ばかり以前」とありますが、前後の文脈から、講談を印刷した明治四十三年より五年ばかり前とするには無理があるように思えますし、阿波狸合戦で出てくる天保十一年(一八四〇年)ごろの人物であるとも言いかねます。


 天保十一年より五年ばかり前の天保七年(一八三三年)は天保騒動(甲州騒動)の起きた年ですが、「松山狸問答」と同じように天保の飢饉と関連づけていいのかもわかりかねます。


 他の登場人物と同じように、架空の人物だと考えたほうがいいのでしょうか。



〇橘浦の万助 「古狸奇談 日開野弔合戦 第四回」(七五ページ、他)


 話の内容が、津波、あるいは大波に遭ったものの万死の中に一生を得た(九死に一生を得たの類義語)という内容なので、そこから万助という名前になったように思えます。


 あるいは日本神話の黄泉比良坂に関する話が元になっているのかも知れません。


 ギリシャ神話にも黄泉比良坂に似た話がありますが、ほかの神話にも似た話があるかどうかはわかりません。



〇片轉金(べへんきん) 「古狸奇談 日開野弔合戦 第七回」(一三八ページ)


 「古狸奇談 日開野弔合戦 第七回」(一三八ページ)で、赤池鯡鯉之助のことを斎藤立本(斎藤利宗)のようだと書かれていて、その説明の中で斎藤立本に討たれた人物ということになっています。


 斎藤立本(斎藤利宗)に関する資料については確認できていませんが、文禄年間の出来事とあるので、史実に基づく出来事ならば場所は於蘭海(おらんかい)の近辺、時期は「臨津江の戦い」と「海汀倉の戦い」の間だと考えられます。


 ただし、於蘭海の発音が「(誰か)いないのか?」と尋ねる時の「おらん(の)かい?」と似ているので、架空の場所ということもありえます。


 片轉金を討つ様子も「赤池河太郎」や河童のようであることですし、架空の出来事であり、架空の人物なのだと考えたほうがいいように思えます。


 エヴェンキ(森に住む人)を連想させる発音になっているのは、名前のように聞こえることと、日本人らしくない名前にすることで異国情緒を持たせようという狙いがあったからではないでしょうか。


 それよりもまず、「片轉金」と書かれているならば「へんべきん」と読むのではないかとも思うのですが。

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