22話姫様のご登場‼︎

「さてと、それでは帰りましょうか」


聖女様に促され馬車に乗ろうとすると後ろから声が聞こえてくる。


「ランサー君〜!」


振り返ると見知らぬご令嬢が走ってきていた。


後ろの方から強そうな騎士達が追いかけているのを見るに、彼女は相当高位の貴族令嬢であろう。


「えっと、どこかでお会いしたことありましたっけ?」


「まぁ、酷いわねランサー君。

王族の人間を忘れているなんて普通処刑ものよ」


王族に僕が会ったことある人なんていないはずだけど。


「失礼ですが、存じ上げておりません」


「まぁ⁉︎ プロポーズしてくださったのにお忘れですか?」


いきなりの爆弾発言に驚きで声が出ないでいるとミーニャが詰め寄ってくる。


「プ、プロポーズってどういうことニャ⁉︎」


「い、いや僕には何のことだかさっぱりで。

それに彼女のことも知らないし」


そのとき馬車のドアが開け放たれ、聖女様が姿を現した。


「全くなにを騒いで……、エリカ‼︎どうしてここに⁉︎」


エリカって言えば確か我が国の王女だったはず、そのお方に僕が…プ、プロポーズ⁉︎


「なに!?ランサー様!いつのまに姫様にプロポーズしていたニャ‼︎」


その言葉を聞いた聖女様もまた、困惑した表情になりながら詰め寄ってくる。


「プロポーズ!?ランサー様、一体どういうことですか!!」


「い、いや僕はなにも。

そもそも、僕は姫様とお会いしたことはないはずで、」


「そういえばランサー君にはエミリと名乗っていたのでしたね」


エミリと言われて僕は一人の少女を想像する。

「えっ、でも確か彼女の髪は緑色だったし、あのときの身長からして同い年ではなかったはず…」


「あらまだ気づいてもらえないなんて悲しいわね。

ならこれで思い出せるかしら『フォームチェンジ』」


そうしてエリカ様は変身魔法を唱えると見覚えのある少女へと姿を変える。


「エミリちゃん!?えっ、ちょっと待って。

エミリちゃんがエリカ様で、姫様で、えっマジ?」


「マジですよ。

ふふやっと思い出してくれた。

久しぶりね、ランサー君。

さっこうなったら早速お父様に婚約者として紹介しに行きましょう」


「えっ、ちょちょ待ってください。

僕エミリちゃんにプロポーズしてなくない?」


「エリカちゃんです!」


「いやいや流石にそれは、」


「エリカちゃんです‼︎」


「姫様にそれはいくら何でも、」


「エリカちゃんです!」


「…わかったよ。ただし公の場では無理だからね」


「それが妥協点ですね。

わかりましたよ。


欲を言えばエリカと呼び捨てでも…」


「それにしてもプロポーズって何のことですか?」


ここでさっきの発言に触れてはまずいと考えて話を逸らす。


恐らく彼女はそれに気がついたのだろう。

抗議の表情を向けてきた。


「まぁいいでしょう。

それにしてもランサー君、それは酷くないですか?

[君とこのままここにいれたらいいのになぁ]と言ってくれたではありませんか!」


「それはプロポーズじゃないじゃないですか⁉︎」


「それ以外にも[必ず君を守ってみせるよ]と言ってくれたじゃないですか。

あれはどう考えてもプロポーズですよ!」


「あれはあの時が緊急事態で君を安心させるために言ったのであってそんなつもりじゃ…」


途中で強烈な気配がして後ろに振り返ると聖女様が真っ黒な瞳孔を見開いているのとミーニャが頬を膨らませて怒っているのが見える。


「ランサー様!そんなことあったなんて聞いてないニャ‼︎」


「ランサー様一体どんなことがあったらそこの女狐との浮気が許されるのかゆっくり聞かせてほしいなー?」


マズイ!このまま二人に捕まったら何かマズイことになりそう。


「ダメですよ!ランサー君にはこれから王城に来てもらって父に婚約者として紹介する予定なんですから」

「騎士の皆様、二人を取り押さえてください!」


エリカちゃんの後ろに控えていた騎士達が二人を取り押さえにかかる。


「ニャ、放せニャ!」


「こら!あなた達、放しなさい‼︎」


「聖女様申し訳ありません。あのときのご説明をしなければいけませんし、

姫様のご命令ですのでご理解ください」


決してこの状況下の二人が怖くて逃げ出したわけではない。


「エリカちゃん、二人を放してあげて。

付いていくからさ」


「そういうことならいいでしょう」

「騎士達、二人を放してあげなさい」


二人の拘束が解除される。


「それではランサー君参りましょう」


「二人ともごめん、ちょっと行ってくるよ」


二人が追ってこようとして騎士達に止められて騒いでいるのを眺めながら僕はエリカちゃんと一緒に馬車に乗り込んだ。


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