第51話
ここから先は、みやちゃんの話しだ。
ここから第八、第九、第十の事件を聞かされる事となる。
「クボさんってさぁ、確か2月13日に入寮したんだよね? て事は、3月5日に入寮した俺達より、20日も前から居たって事だよね?」
何とクボは、路上に36時間もの時間を費やし、卒検にこぎつけたのだ。
奇しくも、みやちゃんからちゃん達と同じ日に卒検とゆー…。
「でさ、俺クボさんと同じ車でさ、クボさんが運転の時、後部座席に座ってたんだ」
かくして事件は起こった。
クボの試験コースはAコース。
教習所を山とは逆の右へ出て、菅野(すげの)川を右に見ながら道なりに進む。
すると2キロ行った先がT字路の突き当たりになる。
そのT字路を左に曲がるのがAコースとなるのだが、ここでよーくこの状況を想像して読んで欲しい。
狭いT字路の交差点手前に、左折をしようと左にウインカーを出して赤信号を待っているクボの車。
クボの左、交差点の角には新しく出来たファミリーマート。
クボが左折しようとする方向からは、右折しようとするダンプカーが交差点内でタイミングを待っている。
その時だった!
ダンプの正面の信号が黄色から赤に変わった。
ダンプは素早く右折。
クボの正面の信号は当然青。
左折しようとヨロヨロと動き出す。
そこへダンプが、まるでクボに向かってくるかのように右折して入ってくる…。
「クボさんどうしたと思う? ダンプが怖くて、ファミリーマートの駐車場に入っちゃったんだよ!」
勿論試験は不合格。
クボは散々説教を食らったらしい。
「それだけじゃないんだよ」
みやちゃんの話しは続いた。
3月も中旬ともなると、教習所はシーズンで満員となる。
俺達みたいに25日も居ると教官達から「長期滞在コース」とからかわれるのだが、クボは「2ヶ月下宿コース」と言われていたらしい。
「でさぁ、寮もいよいよ満員になったじゃん? そしたら教習所どうしたと思う?
クボさんだけ一人、法能温泉に住まわせてんの。
しかもさ、毎日一時間乗るためだけに教習所からわざわざ法能温泉にマイクロバスが迎えに来んの。
で、一時間乗ったらまたまたマイクロバスで法能温泉に帰って行くの。すごいよねー! 売れっ子の小説家みたいで」
彼はまだまだ熱く語っていたが、その他の事はこれらに比べたら些細な事であまり耳には入らなかった。
クボが寮で伝説の男と呼ばれてる事も、ヤクザと渡り合った武勇伝をひけらかしてた事も、相も変わらずひとの洗濯機に自分の衣類を放り込んでた事も…。
「……と言うワケだったんだよー」
やっとみやの話しは終わった。
俺は最後に訊いた。
「みやちゃん、それでクボは今は?」
「ああ、向こうの部屋っ子にさっき聞いたらさ、今日受かったって。でも、あの人学生でしょ? もう新学期、とっくに始まっちゃったね」
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『最短16日で自動車免許が取れる』
この謳い文句を見て、みんな合宿免許に応募してきた。
誰もが16日で帰れると思ったが、実際はそうではなかった。
特に、この『T自動車教習所』のモットーは『厳しさこそが優しさです』
それだけに指導も厳しく判子もなかなか押してはくれなかった。
しかし、この人ほどそれを痛感した人はいないだろう。
クボマサアキ。
まさか、バレンタイン前日に入寮して、桜が散ってから退寮するなんて…。
色々あった合宿生活だったが、クボさんの卒業を聞いて、本当の意味で合宿免許が終わったんだなぁと思った。
俺は自信を持った。
世の中、俺よりアフォはいくらでもいる。
少なくとも、クボマサアキ。
この人がいる限り俺は最底辺ではないであろう。
これからは、何か失敗したりつまずいたりした時は、クボさんの事を思い出すとする。
どんな時でも『クボよりはマシだ』こう思えばきっと乗り越えられるずら。
おわり
合宿免許 爽太郎 @soso-sotaro1207
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