第48話

ザキが不合格だった。


この日、俺、早矢仕さん、学、ザキの同期四人は、通いの連中数名とともに卒検に挑み、それぞれ持てる力を十二分に発揮した。

その結果、ザキを除く三人は合格を決めたのだが…。





ザキこと山崎義秀(仮名)は、俺と同じA区の出身だった。

安いパンチパーマをかけていて、いつも赤いチェックのシャツで、タバコを咥えながらGパンのポケットに手を突っ込んで歩いていた。



コイツはKN中学の出身で、俺が初めてバイトした会社の同期だった滝内幸二(仮名)と言うヤツも、このKN中の出身で、聞けば、この滝内とザキは友達なのだと言う。

こんな所まで来て、妙な偶然である。


それがキッカケとなり俺達は意気投合し、今まで行動をともにした。

思えば合宿所でのベッドも、コイツが上で俺が下。

教習の進み具合もほぼ一緒だった。


俺達はこの教習所で初めて出会ったのだが、お互い口の利き方があまりにぞんざいなので、周りの人達は俺達の事を「旧知の間柄」「昔からの親友」と思ってたそうだ。



事実、歳も一緒で地元も一緒ならそう思うのも無理はない。

だから、教習所の方も、俺とザキを一緒の部屋にしてくれたのだろう。

恐らく俺達は、同じような日に合宿免許の申し込みをしたのだろうから…。



そう言えば、俺が合格した時も、熱血教官岩原が

「キブ。お前の親友は不合格だったずら」

と教えてくれた。

教官ですら、そう見えたのだろう。




俺はザキにかける言葉がなかった。

俺と早矢仕さんが帰り仕度をしている時も、ザキは一人部屋の壁に寄りかかって、寂しそうにタバコをふかしていた。



「じゃ、俺達行くからさ」



早矢仕さんがみんなに声をかけた。


「うん。早矢仕さんもキーちゃんも気ィつけてね」


「二人とも元気でね」



みやちゃんとからちゃんがそう言ってくれた。

俺は部屋を出る前、ザキに一声かけた。



「ザキ…」


「何だよ!」


ヤツはこちらも見ずに、イラついて答えた。


「じゃ、先に帰っからよ…」



「おう。早く行いっちまえ!」



「ンな事言うなって、お前もすぐ受かっからよ」



「当たり前だろ! バカ。 早く行けよ!」


かなりの落ち込みようだ。

俺と早矢仕さんは、仕方ないな、と言った感じで顔を見合わせた。



「じゃ、みやちゃんからちゃん、頑張るんだぜ! ザキ、やれよ!?」


最後に早矢仕さんがこう言って部屋を出た。

俺も早矢仕さんに次いで部屋を出た。




玄関を出て中庭に回ると、みやちゃんとからちゃんがベランダ側の窓を開けて手を振ってくれた。

俺と早矢仕さんも手を振り返した。

が、ザキは出て来なかった…。


俺と早矢仕さんは学と合流して、駅へと向かって歩き出した。



その時だった。




「キブ!」



後ろから、俺を呼ぶ声がした。

ザキだった。



ザキは道路側の小窓を開け、俺達の方をじっと見ていた。

俺はザキが何か言うのかなと待っていたが、


「バカ!」


とだけ言って閉めてしまった。



「ま、しゃーねーよ。次は受かんだろ?」


そう言って学は歩き出した。



俺だって本当は、今まで苦楽をともにしたザキと一緒に卒業したい。

コイツは盆暗だけどイイヤツで、いつもはしづめやでタバコを買う時も、一緒に紙パックのいちごオレを買って来ては俺や早矢仕さんにも分けてくれるようなヤツだった。



俺は家族と離れるような寂しさを感じた。



早矢仕さんに促され、俺は再び駅へと向かって歩き出した。






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