第46話

朝がきた。


いよいよ早矢仕さん、ザキ、そして俺の三人が卒検に挑む日がきた。

ここをパスすれば、すぐに高速教習を受け本日中にオサラバだ。


俺達は荷物をまとめながら健闘を誓いあった。

みんないつになく真剣な表情をしている。

当たり前だ。

この日のために頑張って来たのだから。



やがて法能温泉に前夜同様、往年の藤岡弘の髪を二倍に膨らましたような頭でっかちの前野がマイクロバスで迎えに来て、俺達はそれに乗り込んだ。



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退寮させられた身分だが、俺達はみやちゃんからちゃんの厚意により101号室に入れさせてもらった。


どのみちここの部屋っ子の新人四人は朝から晩まで出ずっぱりでこの部屋には帰ってこない。

みやちゃんとからちゃんはこの日から一日二回の教習だけのスケジュールになっていた。


みやちゃんが興味津々に温泉の事を早矢仕さんに聞いてる。

そんな中、ザキヤマがため息混じりに言った。



「でも早矢仕さん、俺達25日も寮にいて、だいぶ追加料金とられちゃうね」


「そうだなぁ…、俺、七万位かなぁ」


「早矢仕さんも? 俺もそん位。

おいキブ! テメェは十万カァ? ん?」


「バーカ。俺もお前と変わんねぇっての」



すると、それまで俺達のやり取りを黙って聞いていたクボタカアキが、たそがれチックに呟いた。


「アンタら七万なら、ワシはいくらになるんじゃい…」



俺は毒々しく言い放った。



「アンタ100万だよ! 100万!」



みんな一斉に笑い出した。


「なんやワレ、舐めとんかい!」



クボが突っかかって来た。

餞別代わりに俺はクボの五千円の綿のジャケットを羽織ると、清水アキラのように五木ひろしの物真似を始めた。


曲のタイトルは忘れたが、♪あのこ どこへ行くのやら♪ って歌詞を、

♪五木 五木ひろしだよ♪

と繰り返すだけの物真似だ。

それをクボマサアキに替えて熱唱した。

ザキは大喜びだった。




そんな感じでふざけていると、館内放送が流れた。

遂に俺達の試験の時が来た。

早矢仕さん、ザキの顔から笑顔が消えた。


勿論、この俺からも…。



教習所の前に集合し、三人ずつその日に乗る車の前に並ぶ。

すると卒検を担当する教官達がそれぞれの車の前に現れた。


そして俺の乗る車の担当教官は、



「じゃ、みんな車に乗ってくれ」




昨日、俺に天井の穴の事を聞いてきた、岩倉先生だった。

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