第44話

その日は朝からクボのチキンカツ犬食い事件と原チャリ暴走事件、そして天井ぶち抜き事件が起きたのだが、クボが同日、またも伝説を起こした。


「クボ君が検中を喰らったよ!?」


前に一時帰宅で一緒だった、今藤さんが教えてくれた。

ちなみに、検中とは検定中止の略。



「ボクもクボ君の車に同乗してたんだよ」


今藤さんが言うには、その日は路上に出るための修了検定の日(修検)

そこでクボさんは青ざめた表情でハンドルを握っていたのだと言う。



「教官に断続クラッチ使うなって怒られてたんだけどね…、あれは断続クラッチじゃないよ。ただの震えだよ。ガクガクガクってさぁ…」


クボの姿が目に浮かぶ。


「そしたら坂道発進になったのよね…」


坂道発進。

言わずと知れた、初心者には最も難易度の高い技術のひとつである。

大体みんな、クランクや縦列か、この坂道発進を嫌がる。

ここで事件が起こったそうだ。


「ボクもなんか嫌な予感がしたんだよね。

そしたらクボ君さぁ、サイドブレーキ解除しようとしたんだけど完全に舞い上がってたんだろうね、間違ってシートの背もたれのレバー引いちゃってさぁ、 体をくの字に折り畳んで、ハンドルと背もたれにサンドイッチされちゃって、エンストこいてアウト!


まさかの検中だよ。

いやぁ、気の毒だけどさぁ、さすがに笑っちゃったよ。

『教官ー!!』って絶叫してたからね」



「………」。



見てないから真偽の程は定かではないが、もう呆れてしまった。

またしても、クボは路上に出れなかった。

俺と早矢仕さんとザキは、明日卒検だと言うのに…。



こうしていつになく慌ただしい一日を終えた俺達に、まさかの館内放送が流れた。



「早矢仕さん、山崎義秀さん、木風呂沸人さん、中林学さん、以上の方、至急教習所前までお越し下さい」



クボさん以外の古株全員、まさかの呼び出しを喰らった。

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