第43話

「やっべー! 穴開いちったよ…」



早矢仕さんは上半身を起こし穴の開いた天井を見つめた。

天井の素材はとても薄いアスベストみたいな感じのもので、木材ではなかった。


破片を手に取るとビスケットを割った断面のようにザラザラとしてたから。


穴はポッカリと言うより、突き破った感じで亀裂が天井内部に食い込んでた。

それほど大きな空洞ではないが、誰が見たって一発で分かる。


「ヤベ…、どうしよう」


早矢仕さんの表情は青ざめていた。

ただでさえ俺達は一週間も滞在期間を延長してしまっている。

追加料金も結構な額だ。

そこへきて天井の修理費なんて、考えただけでもゾッとする。



取り敢えず、早矢仕さんは暫く黙ってる事にした。

遅かれ早かれ今日中には掃除のおばちゃんに発見される。

その時の流れでどうするか決めるようだ。



とは言え、方向的にはシラを切るつもりなんだろうなとは思った。

そして予想通り、この日の午前中に天井の穴は発見された。




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俺とザキが部屋にいると、突然一人の教官がノックして入ってきた。

教官連中の頂点に君臨する、岩倉先生だった。


往年の二谷英明のような渋さを撒き散らし、睨みを利かせながら俺達に訊いてきた。


「これをやったのは誰だ!」


「…………」


俺達は俯き加減で黙りこんだ。


「君達なのか?」


「違います!」


じゃあ誰なんだ? 岩倉は続けたが、俺達は黙ってた。

言える訳ない。

一緒に暮らしてる早矢仕さんを売るような真似は…。


岩倉は更に続けた。



「ここで寝てるのは誰だ?」


「寝てるのは、久保さんですけど…」


【寝てるのは久保さんですけど…】

この言葉で岩倉は何かを察知したようだ。

寝てるのは久保さんだけど、やった人間は別なんだな…。



岩倉は尋問を俺に定めてこう言ってきた。


「君は穴を開けた人物を知ってるか?」


「いや、知りません」


「──君が友情で仲間をかばう気持ちは解る。でも、やった事はやった事としてきちんと始末しなければならない。君の行為は、犯人を隠す事に繋がる」


言ってる事は確かに岩倉先生の言う通りだ。

だが、早矢仕さんと寝食をともにしている俺にとって部屋のみんなは家族だ。

その家族を裏切る事は出来ない。


「俺が気づいた時には、既に穴が開いていたんで…、見てないんです」


そうか分かったと、岩倉は部屋を出て行った。

結局この事件は教習所側が犯人を特定出来ずに終わったのだが、俺としては、早矢仕さんだとバレるのも嫌だったが、やってもいない件をクボさんのせいにされるのも嫌だった。


結果としてはどちらのせいにもならずに済んだのだが、何だか後味の悪い事件となってしまった。

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