第42話
その日、俺と早矢仕さんはまったく予定がなかった。
みやちゃんとからちゃんはいつものように六時間の講習と二時間の実地を受けていて、ザキヤマは一時間だけ車に乗る事になっていた。
そしてあの男、クボマサアキは、二時間の実地の後に原付講習を受ける事になっていた。
俺と早矢仕さん、そしてザキヤマの三人は卒検を翌日に控えていた。
早矢仕さんは何故かこの日も自分のベッドにはいかず、二段ベッドの上のクボの場所に寝転がっていた。
前にも話したが、早矢仕さんには結婚を考えている彼女がいるのだそうだ。
彼女はひとつ年下で、確かカレー屋さんでバイトしてる時の子だといっていた。
早矢仕さんの家庭環境も複雑で、家族の愛に恵まれなかった早矢仕さんは、早く自分の家族を持ちたいと話していた。
この日はいつになく真面目な話をしていた。
そう。ザキとはあまり真面目な話しはしないのだが、早矢仕さんとはバカ話しだけではなく、真面目な話しもよくした。
俺も早矢仕さんに自分の将来の夢を打ち明けた。
ここに免許を取りに来たのは、ゆくゆくは自分で運送屋を起こしたかったからだと…。
お互い明日にはここを出たいね等と話していた。
するとそこへ、二階のシゲこと田中重政のトコの部屋っ子、エース児島が勢いよくドアを開けて入ってきた。
このエースは、みやちゃんからちゃん達と同じ日に入寮して来たのだが教習の進み具合が異常に早かった。
それで同期からエースの称号を与えられていた。
エースは非常におとなしい人間だったのだが、この日は部屋に入るなり興奮気味にまくし立てた。
「俺、スゲーもん見ちゃいました!」
話しはこうだ。
エースが教習中、敷地の隅でクボが原付講習を受けていた。
教官は原チャリの横に立ち、ハンドルを握りながらアクセルの操作を説明してたのだそうだ。
そしてそれをクボ達教習生にも真似させたらしい。
「その時、いきなり悲鳴が聞こえたんですよ。うわぁーって」
見ると、クボは原チャリのアクセル加減が分からずに、思いっ切りグリップを開けてしまったため、ハンドルを握ったまま原チャリとともにいきなり猛スピードで走り出したと言う。
「クボさん絶叫しながら、俺のクルマぶち抜いて行きましたよ? 原チャリ持ったまんま、うわぁーって…」
そしてクボは、エースのクルマをぶち抜いた後、走路に転倒したらしい。
「教官、言ってましたもん。クボ君、アクセル緩めれば停まれるんだよって。でもクボさん、原チャリ持ったまんま走ってましたもんね」
「激烈バカじゃーん!」
早矢仕さんは手を叩きながら笑い転げた。
その時だった。
早矢仕さんの足が天井に当たり、穴が開いてしまった。
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