第41話

翌朝、俺達はいつもの館内放送で目覚めの悪い朝を迎えた。

あとは卒検を待つだけの俺と早矢仕さんとザキにとってはどうでもいい館内放送だが…。


車に乗る訳でもなし、なかたやでメシが食える訳でもない。

ずっと寝ててもいいと思った。


特に前夜はクボさんがひとの財布を開けると言う泥棒猫みたいな真似をしたせいで、睡眠時間がいつもより短かかったから…。


それでも他の三人には朝からびっしりスケジュールが組み込まれていた。

そう。みやとからと、あの男…。



「おはようさん」


クボマサアキだ。


クボは何事もなかったかのような素知らぬ顔でベッドから起き、やかんの水を飲んでいた。

そこへいつものようにザキが俺を誘ってきた。


「おうキブ、タバコ買いに行くぞ」


「ん…」


ザキは二日に一回のペースではしづめやにタバコを買いに行ってた。

毎回俺も付き合わされたのだが、必ずクボの話題になった。



「しかしクボさんもよ、どうしようもねぇ人だな」


スタジャンのポケットに手を入れ、白い息を吐きながらザキが言った。


「夕べのか? まったくなぁ…。ひとの財布開けるとは思わなかったよ」


「でもよ、お前もお前でひどいと思うよ? 俺は…」


「何でだよ?」


「クボさんのトレーナーに落書きしちゃってよ。俺がもしクボさんなら、やられっかも知んねぇけどお前にかかっていくね」


「よく言うよ。そう言うお前が一番笑ってたじゃねぇか。クボさんのトレーナー見て」


「俺だったら絶対かかっていくね」


ニヤニヤしながらザキが繰り返した。






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部屋に戻ると、相変わらずクボは背中に落書きがされてある白のトレーナーを着ていた。

これに黒のスウェットのパンツがクボのパジャマであり外出着だ。


既に部屋にはみやちゃんからちゃんの姿はなく、なかたやに行ったようだった。


「いいなぁみやちゃん達、俺も飯粒食いてぇよぉ…」


早矢仕さんがうつ伏せに寝転びながら死にそうに言った。

するとそこへタイミングよく、兄貴がやってきた。


「健二(早矢仕さん)、弁当食うか?」


ドアを開けるなり兄貴が早矢仕さんに言った。

兄貴の手には、メットとファミマのコンビニ袋が下げられていた。


「兄貴、要らないの?」


兄貴はロッカーの前にドタッと座って足を伸ばし、両手を後方に着いた姿勢で背中を反らした。


「痛っててて…。ああ、やるよその弁当。でもよ、それ賞味期限昼までなんだよ。 昨日買ったんだけど食わなくてな…」


兄貴が買ったのはチキンカツ弁当だった。


「じゃ、兄貴御馳走になります」


「おう」


早矢仕さんは嬉しそうに包装を剥がした。


「ちょうど飯粒食いたいって言ってたトコなのよ。チキンカツはどうでもいいんだけどさ…」


そう言って早矢仕さんは、弁当容器のフタにチキンカツを乗せ、白米だけを食べ始めた。

その食いっぷりを見て、兄貴が

「健二よっぽど腹減ってんだな…」

と笑ってた。


その時だった!


「ワシは飯粒よりチキンカツに興味あるんよ」


何と! 誰も良いと言ってないのに、クボは勝手に早矢仕さんのどけたチキンカツを食べ始めた。

しかも畳にうつ伏せで寝そべったまま…。


早矢仕さんはチキンカツに興味ないから何も言わなかったが、俺とザキは呆気に取られた。

本来の弁当の持ち主である兄貴だけが、

「お前あさましいな…」

と呟いた。



胸元に枕を当て、うつ伏せでチキンカツを食べるクボの姿は、あさましいを通り越して、ただの家畜に見えた。



これが第六の事件だった。

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