第40話

その日の深夜。


またも俺の足元からガサゴソと物音が聞こえてきた…。

俺は目を覚ましたが、布団から出なかった。

部屋は寒いし、何よりまだ眠かった。


それに、どうせこの物音は誰が立ててるのか容易に想像出来たから。

もう見なくても分かる。

この物音はクボだ。


どうせクボがまた夜中に腹を空かせ昨日買ってきた缶詰でも食ってんだろう…。

そう思った。


すると案の定、クッチャクッチャと品のない音を立てながら何か食べてる音がする。

聞いてるだけで不愉快な音だったので、頭まで布団をかぶってなるべく聞こえないようにした。


すると今度はロッカーをそーっと開ける音。

そして中から何かを取り出したのだろう、マジックテープを剥がす音が聞こえた。

よく聞くと、それは聞き覚えのある音だった。


(ちょ…待てよ!)※キムタク風に


俺はベッドから飛び起き、ロッカーの前に座っているクボに背後から声をかけた。


「何やってんだよ」


クボはピクッと反応して、一瞬固まった。

俺は背後から前を覗き込んだ。

クボは、俺の財布から金を出していた。


「テメェ何やってんだよ!」


俺は頭に血が昇った。

クボは動揺しながら、


「いや、いくら入ってんのか数えようと思うただけで…」


と、意味不明な言い訳をした。


「俺の財布にいくらあろうがテメェにゃ関係ねぇだろ!

百歩譲って気になったにしても、何でみんなが寝静まった深夜にひとの財布開けて金を数えんだよ!?」


「いや、せやから」


言い訳になってなかった。

しかもよく見ると、クボがさっきまでクッチャクッチャ音を立てて食っていたのは、前日俺が缶詰と一緒に買っておいたレトルトの肉じゃがだった。


自分も食糧を買ってきたクセに、他人の備蓄しといた食糧を、しかもレトルト食品を加熱もせずむさぼり食ったこの男に、心底頭にきた。


「テメェ、ちっと来いっ!」


俺はクボを立ち上がらせようとした。

だがクボは二段ベッドの上に逃げた。

俺はクボを追いかけベッドの上に一緒に昇った。


この騒ぎに、101のみんなは言うに及ばず、102の学まで起きてきてこの部屋に駆けつけた。

俺はクボと取っ組み合いになった。


「何だ? 喧嘩か?」


嬉しそうな学の声が下から聞こえた。

早矢仕さんはまだ寝起きの声だったが、クボちゃんがキーの財布から金盗ろうとしたんだってよ…と説明していた。


「何すんじゃいワレ!」


俺はクボの頭を押さえつけ、メガネを剥ぎ取ってやった。

うつ伏せに頭を押さえつけられたクボは、じたばた暴れていた。


「何すんじゃいワレだぁ? テメェは何してたんだよ!?」


「………」


クボは言葉が出なかった。


「テメェなぁ、やっていい事と悪い事がある事位分かんだろ!

クッキー盗み食いすんのたぁワケが違うんだぞ!?

俺達共同生活してんだからな!? 信頼関係なくしたらやって行けねぇよ。

ましてや同じ部屋の人間のもん手ェつけるなんてよ!」



クボはうなだれていた。

俺はクボのパジャマにマジックで『バカ』と書いた。

よっぽどブン殴ってやろうかと思ったが、こんなヤツ殴ってもこっちの手が痛い。

それに、これは以前服を破かれた仕返しも兼ねていた。


「ううう…」


クッキー泥棒の件もバラされ、クボは遂に泣き出した。


「クボさん泣くなよ」


「ううう…」


「もう二度とこんな事すんなよな?」


ちょっとやり過ぎたかも知れないなと思い、俺はクボと握手した。

すると下からこんなやり取りが聞こえた。


「あー何だよ、キブの勝ちかよぉ…」


「イエーイ俺の勝ち。ハイ、二千円」


「チェッ…」



何と102からやってきた学とニシが、早矢仕さん、ザキと一緒に、どっちが勝つか賭けをしていた。

しかしながら、この事件で完全にクボはみんなから軽蔑されてしまった。

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