第37話

「クボさん遅くない?」


時刻は既に六時をとっくに過ぎていた。

俺と早矢仕さんが寮についてから20分は経っていたので、クボが焼鳥を食う時間を考慮しても、20分と言う差にはなるまい。


寮には俺と早矢仕さんの他に、ザキ、みや、からとクボ以外全員揃っていた。


みやちゃんとからちゃんは、なかたや食堂で夕食を食べ終え、次の時間まで部屋で待機していた処で、俺と早矢仕さんとザキの三人は、買ってきたさばの味噌煮、まぐろのフレーク、さんまの蒲焼きなどの缶詰を開け食べながらクボを待っていた。


ご飯も味噌汁もない、質素な食事だ。

もうかれこれ一週間こんな食生活で、比較的裕福なクボだけがいつも一人で豪快にメシを食っていた。

缶詰をつつきながら早矢仕さんが言った。


「クボちゃんのこったからまたどっかで寄り道して何か食ってんじゃねぇの?」


「うーん…、それもあるな。確かに焼鳥だけで20分もかかんないもんね」


「大体よぉ、クボちゃん今日(路上に出れるかの)見極めだろ? いくら何でもすっぽかさねぇべ?」


「まぁ、そうっスけど」


「キブ! テメェはひとの心配なんかしてんな!」


ザキがいつものように絡んできた。


「ハァン? オメェは俺より遅れてんだろうよ。みやちゃん達に抜かれんじゃねぇぞぉ?」


「うるせぇよあほ」


そう言ってザキが俺の缶詰に箸を伸ばした。


「テメェの食えタコ!」


俺も負けじとザキの缶詰に箸を出す。


「セコいんだよキブ!」


「キーちゃんとザキちゃんは仲が良いねぇ」


そう言ってみやちゃんが笑った。


「いや、違うよ、このバカキブは…」


「しっ! みんな静かに。館内放送だよ」


からちゃんが人差し指を口に当てた。


「6時30分教習予定者を発表します。

○○さん、◯◯さん、田中重政さん、◯◯さん、宮下さん、辛島さん、クボさん、以上の方、至急教習所前に集合して下さい」


インテリ鶴川の館内放送だ。

早矢仕さんが、

「みやちゃんからちゃん頑張れよ?」

と声をかける。

すると、陽気なみやちゃんが 「おうっ! 行ってくんぜザキちゃん」


「ん」


素っ気ないザキ。 缶詰に夢中だ。


からちゃんは胸のあたりを押さえながら

「ヤベー、緊張してきた…」とブツブツ言いながら出て行った。

見た目はコワモテのクセして。


二人が出て行ったあと、時計を見る。

時刻は6時25分を回っていた。




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