第35話

朝イチでの教習を終えた俺とクボは、もう一時間ある早矢仕さんを寮で待っていた。


「いいなぁキブ。お前ら遊びかよ…」


ザキが羨ましそうに呟いた。

ヤツのこの日のスケジュールは、お昼を挟んで二回乗ると言う、最悪の時間割りだった。

これでは寮で留守番してるしかない。


「なんかお土産買って来てやるよ」


俺が機嫌をとると、当たり前だ、バカ! と怒鳴られた。

やがて早矢仕さんが戻って来て俺達は寮を出た。


「じゃ、走りますか」


俺と早矢仕さんは並んで走り出した。

その頃、俺は週に二日サッカーの練習をしていて体を動かしていたし、早矢仕さんも筋トレをしていて、しかも二人ともタバコを吸わない。


対してクボは、口では運動をしているなどと言っていたものの法螺だと言うのは丸分かり。

挙げ句に主食は汁粉にトンカツ。

コーラにファンタにビールに焼酎。

つまみはサラミにレーズンバター。

その上毎日タバコを吸えば、走れないのも無理はない。

(※なんか都々逸みたいなテンポの文章)



100メートルもしないうちに、みるみる差がついた。

ここでしばらくクボを待つ。

待ってもらえたと喜ぶクボは、嬉しそうにスパートをかけて走ってくる。

だが俺と早矢仕さんは近づく直前、また走り出す。


力尽きたクボは両手を膝に置き肩で息をする。

ここで再びクボを待つ。

クボは再び嬉しそうにスパートをかけてくる。

近づく直前またも俺達は走り出す。

クボは再び力尽きる…。



このお陰で一時間の道程を半分の30分でT市駅に着いた。



「きっついなー、この靴いつからキツなったんやろ?」


クボはマラソンの遅れを靴のせいにした。

すかさず俺が


「ブカブカじゃん、その靴」


と言うと


「なんやワレ、舐めとんかい!」


と凄んできた。

それを見て早矢仕さんはゲラゲラ笑っていた。


「それより何もねぇーなぁ、キー」


「せやなぁ…」


早矢仕さんは俺に言ってるのに、クボが答えた。


「早矢仕さん、隣町まで行きません?  隣町は結構栄えてるっぽいんスよ」


こう言うと


「せやな。隣町は栄えとるな」


とクボ。早矢仕さんに訊いてるのに、イチイチうるさい。

何でお前が隣町が栄えてるなんて知ってんだよ!

そう思いながらもクボには構わず早矢仕さんの方だけを向いて会話した。


「確か、T文大って大学があって、そこの町に色々あったみたい。ボウリング場とかバッティングセンターとか」


「せやな。T文大やな。あそこは栄えとるわ」


黙ってろお前は!

そう思いながらもまたまたスルーで、俺達三人はT市の隣、谷村(やむら)へ向かう事とした。

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